本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1890(明治23) 年11月28日

 十一月二十八日附 グレー発信 母宛 封書 ますますごきげんよくいらせられ候はづおんめでたくぞんじあげまいらせ候 わたくしことハいつもあいかわらずたつしやにてべんきようをいたしてをりますからどうぞどうぞごあんしんくださいまし おとゝひのあさおきてみましたらまつしろニゆきがつんでをりましたのでまことニうれしくそれからさくばんもゆきがふりましたからなかなかいなかのけしきもよろしくなりました これがまづことしのはつゆきでございます さくばんハあんまりゆきのふるけしきがよろしゆうございましたからすこしおそくなりましたけれどもよるの十一じごろからそとニでましてゆきのけしきをすこしかきましたがずいぶんさむくゑのぐニゆきがまじつてこをつてしまいなかなかかきにくゝそのうへてがかぢかんでしましましたからうちへかへつてねてしまいました こんにちもけさ九じすぎから十一じはんごろまでゆきのなかでゑをかきましたがけさのほうがさくばんゆきがふつてるさいちゆうよりさむいようでした さむいとゆつてもてがつめたくつてはなみづがたれるくらいんことにてゑをかくおもしろさニはかへられませんよ こんなニさむいときなどニおもしろそうに一しようけんめいニなつてゑをかいてをるやつをゑをかかないひとがみましたらさぞばかげてをるだろうとおもハれます らいげつニなりましたらぱりすニかへりましてがつこうですこしべんきようをいたしましたらまたらいねんニなりましたらこゝニやつてくるつもりです こゝのいなかのけしきハなつよりもふゆのほうがよつぽどよろしゆうございます ことしのなつてほんニなつてくれるこゝのむらのをんなのやつのつらのゑをおゝきくかきかけましたがたつた二三どかいたばかりでわたしハちよつとぱりすへかへりそれからまたまいりましたときニハもうさむくなつてかくことができませんようニなりましたがそのゑをどうかしてかきあげてしまいらいねんのはくらんくわいニだしたいもんだとかんがへてをりますがなにぶんニもそのがくハをゝきくてそとでかくかまたゑかきべやでもかりてそのなかでかくかどうかしなけれバいけません それゆへらいはるニなつてこゝニまいりましたときにハすこしおかねハかゝりますがぜひゑかきべやをかりてそうしてそのおゝきなやつをかいてしまをうとおもつてをります こんどハまづこれぎり めでたくかしこ 母上様  新太拝  せつかくおからだをおだいじになさいまし みなさんへよろしく

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