本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1888(明治21) 年2月9日

 二月九日附 パリ発信 母宛 封書 (前略)わたくしことはいつもあいかわらずだいげんきにてまいにちゑのけいこをいたしてをりますからどうぞどうぞごあんしんくださいまし いなかからはこんげつの二日のひにかへつてまいりました いなかでもまいにちゑをかきましてまことによいたのしみをいたしまたいなかはぱりすのみやこからみるとすこしはさむさがつよいようでしたけれどもそんなにたいしたことはありませんでした わたしがいつてをるうちにゆきなんどがふりましてまことによいけしきでした ゆきのふつたけしきなんどもかきました そのいなかでわたしがまいにちめしをたべにいつためしやのおばあさんにちかしくなりましてそのばあさんおむすめのつらをかいてやりましたらたいそうよろこびましてたつ日などはめしのごちそうをいたしました またそのおばあさんにたのんでそのいなかのびんぼうなきたないばあさんをめつけてもらいおかねをくれてそのばあさんのつらをけいこのためにかきなどしてまことにおもしろいことでした わたしハみやこのにぎやかなやかましいところよりもきたなくてもこんなしづかないなかのほうがすきです ともだちのくめさんも四五日ばかりゑをかきにきましたからはなしあいてができてまことによいことでした(後略) 母上様  新太拝

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