本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1885(明治18) 年8月28日

 八月二十八日附 パリ発信 母宛 封書 (前略)こないだこゝにおる日ぽんじんのともだちと四つたりづれでゑんそくをいたしましてまことにおもしろいことでした あさ八じにこうしくわんにみんなあつまりそれからじようきしやにのりじゆいやんじよいざすといふいなかにゆきました このところにはせいようじんのかねもちにやとわれておるにつぽんのだいくとうゑきやがおります わたしなんどがじようきしやからおりますと大くのげんぺいといふやつがむかいにきておりましたからすぐに一しよにそのひとのすまつておるやしきにゆきました さてそのやしきのもんはにつぽんづくりにてそれからなかにはいつてみるとたかいところのおかのうへにちややのやうなまことにしやれたにつぽんづくりのうちができておりました どうもにつぽんにかへつたようなこゝろもちがいたしました それからだいくだのうゑきやだのみんなかゝつてにつぽんりようりをこしらへしばのうへにけつとをひきみんないたぐらめをしてごぜんをたべました こんどのにつぽんりようりはなかなかしやれたものにてなすびのおこうこだのわかめとのりときうりとごたまぜにしたおすのものがでけるやらまたわかめとたまごのおすいものがでるやらしやもにねぎをいれてにるやらまるでにつぽんのとうりでした それからにつぽんのあさうらぞうりがありましたからくつをぬいでひさしぶりにはいてみました ゆびのまたがすこしいたくてへんなあんばいでした このあんばいぢやにほんへかへつたときにはげたははけますまい よるのめしにはごもくずしができましてまことにうまいことでした それからおとでうゑきやがにつぽんのふゑふきだしのはやしのまねをしましたからにつぽんのさんのうさまのおまつりかなんかをみるようでした めでたしめでたしめでたしかしこ 母上様 ぶじ  新太郎より  せつかくあつさなんどにまけないように いばつておいでなさいまし みなさんによろしくよろしくよろしく したの父上様からなをよんさんへのおてがみはおくつてあげます こんどのてがみはあんまりながくむちやむちやくちやくちやですからよくかんがへてよんでくださいまし〔図 写生帖より〕

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