1904(明治37) 年10月31日

一ツ橋では明日の大会で生徒は落附かず早く切上げる。夫より正金銀行にまわり白滝へ二百円為替券を取組み又茅場町今村銀行に於て九鉄新株払込を済まし丁酉銀行に立寄。帰途日吉町共存同衆にて小泉氏を尋ねシンガア軍用自転車というを見る。十一時過に帰宅す。夕五時半過に黒田来る。白滝への為替券を渡す。〔欄外に「今日の新聞では英露事件も大して物になりそうでない様子である。」〕十月の月も是で尽きた。此月は沙河会戦の好成績ありしが奉天の進軍にはまだ渉らぬ。旅順の攻囲は二十六日より総攻撃を開始せりとの確報あるも、是又全部の陥落には猶時日を要するが如し。バルチック艦隊は今や地中海口に達したるも英国漁船の撃沈事件のため其一部は西班牙海港に淹留したり。此際一般の人気は極めて沈静にして第三回の国庫債権の如きも十分の成功を見んとするなり。秋季の市況は思ひ外に活気あり、団子坂の戦争人形は繁昌を極むというが如き実に予想の外なりというべし。

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