本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1901(明治34) 年11月22日

 十一月二十二日 金 (碓氷紀行) 午後五時までに上野停車場前の茶見世に集りたる者は小代為重 久米桂一郎 菊地鋳太郎 岩村透 中澤弘光 矢崎千代治 安藤仲太郎 佐野昭及び拙者の九人也 此の内安藤は只吾々の立て行く景気を視て羨ましく思ふが為ニ来りたるものなり 乃ち八人連にて立つ 高崎行の汽車五時二十分ニ発す 九時頃高崎着 直に高崎館といふ停車場前の宿屋に入る 此宿屋三階造の不思議な形の家也 吾々の部屋は其三階の一番下の座敷にて高崎館正四位勲三等金井之恭と有る大きな額の掛りたる処也 此の家の主人不思議な形の家を造る丈有つて骨董好と云ふ事 成る程座敷に色々こまごました品物が列べ立てゝ有る 其内に古銅まがひの虎を踏まへた加藤清正が尤も奇体なもので之が為め大分笑の種が出来た 此の辺に八屋柿といふ先の尖つた大きな柿が有るが一個一銭より三銭位で中々甘い

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