1904(明治37) 年8月29日 七時過に一同起き出で裏坐敷にて竹沢の注文により西瓜を食した。朝飯前に西瓜は生れて始めて余り感心しない。それから朝食を終り海岸に行く。宿屋から海までは四五町はある。海水は至極清潔二三年振りで潮に浴した。今朝は風はなく時々大浪が打寄せる丈で気持がいゝ、浪乗りをやり損なつて竹沢のでんぐりがへつたのは大笑ひであつた。宿屋に帰つてからは例の戦が始まり昼飯後も継続した。五時になつて近所の路を散歩した。総て小松林と畑であるが色々な高低があつて面白い。河口に近き漁村に至れば鰹船の着で賑はつて居る。竹沢が今朝から探して居た鰹の腹身を十五本二十銭で買ひブラ提げて海辺に出る。此漁村の名は忘れたが沙原の景色など面白い処がある。海辺で奇麗な石など拾ひ宿屋に向つたのはもう薄暗い時分であつて宿の女将が丁度迎ひに来た処であつた。此時に小代が煙管を紛失した事に気がついて大騒動をして探したが遂に見当らなかつた。今夜は竹沢の腹身を焼いて食したが塩のきかない故か余り結構でもなかつた。食後燈下にて二時間斗ゲームに取かゝる。後佐野と二人で提灯を持つて松虫取りに出たが中々つかまらない。又小父さんのパイプを探して見たが是も不成功に了つた。 続きを読む »