東京文化財研究所 > ウェブコンテンツ > 写真の保存と保護のための写真の基礎

写真の保存と保護のための写真の基礎

5 写真の保存のための知見と技術

データとしての写真ではなく、モノとしての写真の保存
モノというのはすなわち物質です。物質の変化を防止して保全する、その方法について考えます。

5.1 写真の保存に関連する物質

5.1.1 画像形成物質: 画像を作っている物質

  • 金属銀粒子: 白黒写真
  • 銀以外の金属: ダゲレオタイプのアマルガム(銀-水銀合金)、調色処理で銀と置換した金属(金、白金など)
  • 金属化合物: 調色処理で銀と反応した化合物(硫化銀、セレン化銀など)
  • 色素: カラー写真、オートクロームカラー写真のモザイクフィルターの色素
  • インク: データをプリントした写真、印刷した写真像

5.1.2 バインダー: 画像の形状を保持するための物質

  • ゼラチン膜: 白黒写真、カラー写真
  • 色素胞: カラー写真において色素やカプラーを包含している油滴
  • コロジオン膜: コロジオン湿板
  • アルブミン(鶏卵タンパク)膜: 鶏卵紙
  • カラーフィルター(着色デンプン粒): オートクロームカラー写真

5.1.3 支持体: 像全体を保持するための物質

  • 紙: 写真印画紙のバライタ紙、RCペーパーなど
  • 紙: 鶏卵紙、カロタイプなど
  • プラスチック: フィルムベース = ニトロセルロースフィルム、TACフィルム、PETフィルム
  • ガラス: ゼラチン写真乾板、ネガとして用いるコロジオン湿板、オートクロームカラー写真乾板
  • 金属板: ダゲレオタイプ = 銀板、銀メッキ銅板
  • 金属板: ポジとして用いるコロジオン湿板(ティンタイプ = 錫板、フェロタイプ = 鉄板)

5.1.4 写真保護材

ガラス: 写真保護のためのカバーガラス、ダゲレオタイプなどに多い

5.1.5 残留物質: 写真画像作製の過程で残留する物質

  • 定着液成分: チオ硫酸塩など  定着後の水洗不足でゼラチン膜中に残留
  • 水洗の水道水中の溶存成分: ゼラチン膜や印画紙中に残留、ガラス表面に水滴跡として析出
  • カラー現像未反応物質: カラー写真の未露光部に残る油滴中の未反応カプラー
  • インスタント写真の感光物質: ハロゲン化銀微結晶、現像液とその酸化生成物、未反応カプラーなど、水洗工程が無いので除去されない、モノシートタイプの場合すべて残留
  • 支持体ガラスの析出物質: ソーダライムガラスからの析出塩類 = ガラスのやけの成分

5.2 物質の変化の種類と対処法

5.2.1 化学的変化: 化学反応 = 変質、退色、分解、酸化(さび)、吸湿、異物の析出、発熱対処法

  • 低温(化学反応は通常温度が高くなるほど促進される、多くは10℃あがると2倍ぐらい)
  • 低湿度・除湿(多くの化学反応は水分の存在で促進される)
  • 遮光(光化学反応の防止)
  • 密封(外来物質の遮断)
  • 換気(水分、揮発性有害物質の排出; ビネガーシンドロームの酢酸、塗料・接着剤等から放出されるガスなど)
  • 吸着(水分・揮発性有害物質などの吸着剤での除去)
  • 無害化反応処理(有害物質を無害物質に変換; ビネガーシンドロームの酢酸の中和など)
  • 冷却・放熱(ニトロセルロースフィルムの分解熱の放散など)

5.2.2 物理的変化: 形状の変化 = 割れ・亀裂、剥離、膨張・収縮、変形、傷つき、結露対処法

  • 一定温度・湿度の維持(急激な温度・湿度の変化を避ける)
  • 遮光(日射による温度上昇の防止)
  • 密封(外界との遮断)
  • 包装(接触による破損防止)
  • 静置(衝撃による破損防止)

5.2.3 生物学的変化: 生命体の活動による変化 = 腐敗、カビの発生、虫害対処法

  • 低温(生命体活動の沈静化)
  • 殺菌・消毒(生命体の除去)
  • 密封(外界との遮断)
  • 換気(生命体の排除)

©独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所