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写真の保存と保護のための写真の基礎

2 銀塩写真の像ができる原理の詳細

2.6 カラー画像: 色分解の原理とカラー画像形成

2.6.3 発色現像: 色情報の発現

色情報を含む潜像が3層の乳剤中に潜像核のあるハロゲン化銀微結晶の分布という形で作られますが、この像は人間には見えません。ここから各層にある像を感光した光の色に対応した色で再現すればカラー写真が得られます。この色を作るために、発色現像という操作を行います。

カラー感光材料の乳剤層にはハロゲン化銀微結晶の他に、カプラーという色素の原料となる物質が含まれています。現像処理を行うと式2-2にも示したように、現像主薬の酸化生成物Ox.が生じます。カプラーはこのOx.と反応して色素を作ります。この反応式を式2-5に示します。

カプラーの分子構造を変化させることで、イエロー・マゼンタ・シアンと異なる色の色素を作ることができます。青・緑・赤それぞれの光に対して、その補色であるイエロー・マゼンタ・シアンにそれぞれ発色するようにカプラーは作られています。カラーネガフィルムでの3原色の記録の模式図を図2-10に示します。各感光層には感じる光の色の補色に発色するカプラーが入っていて、ある色の光に感光するとその補色に発色します。

図 2-10 カラーネガフィルムでの3原色の記録の模式図
R:赤、 G:緑、 B:青、 Y:イエロー、 M:マゼンタ、 C:シアン、 W:白、 Bk:黒

カプラーが水溶性であると乳剤を塗布したとき、膜が乾燥するまでの間に各感光層中のカプラーが他の感光層に拡散してしまいます。通常のカラー感光材料ではカプラーを水に溶けない油溶性の構造にして、カプラー分散物という微小なオイルの液滴の中に溶かして閉じ込めておき、この液滴を乳剤層中に分散させる構造にしています。発色現像で生成したOx.は近隣の液滴中のカプラーと反応してそこに色素を作り、色素胞が形成されます。生成した色素は色素胞内に固定されるので、そこに色素の色からなる顕像が発現します。乳剤層にカプラーが含まれているので、内式と言います。現像液中にカプラーを含ませておく外式というカラーフィルムも、コダクロームなど少数ありました。

発色現像後の露光部には色素の他に黒い現像銀の粒子もできていて、色素の発色と重なって色がくすんでしまいます。そのため定着と同時にこの現像銀を酸化してハロゲン化銀に戻し、定着液で溶解除去する漂白定着という処理を行います。最終画像は色素のみで作られています。

カラー写真もネガ・ポジシステムで作られます。まず図2-10に示したように、被写体の青・緑・赤の色情報が、カラーフィルムにイエロー・マゼンタ・シアンとそれぞれの補色に発色させることで記録されます。写真引伸器でこのネガフィルムを通してカラー印画紙に露光して、再度発色現像を行うと、印画紙上にイエロー・マゼンタ・シアンの補色の青・緑・赤が発色し、被写体の色情報と同じ色が印画紙に再現されます。その原理図を図2-11に示します。

図 2-11 ネガフィルムからのカラー印画の形成の模式図
R:赤、 G:緑、 B:青、 Y:イエロー、 M:マゼンタ、 C:シアン、 W:白

カラー写真の像はシアン・マゼンタ・イエローの色素を含む色素胞の分布でできています。これらの色素は時間とともに少しずつ分解して、色が失われていきます。このとき同じ速度では分解しないので、3色のバランスが崩れて、色が変わっていくことになります。3層すべてが発色した黒色部分で、そのうちのシアン色の層が退色すると、赤色の光が透過するようになり、写真像に赤みがかってくることになります。

また内式カラーフィルムでは未露光部にカプラーを含むオイル液滴がそのまま残っています。外式のフィルムはオイル液滴を含まないので、保存上耐変色性に優れています。

2.7 インスタント写真

銀塩写真システムは撮影後、現像処理をしないと撮った写真を見ることができません。撮ったその場で写真を見たいという望みをかなえるため、その場で写真ができるインスタント写真システムが開発されました。これはネガ・ポジシステムによらない画像形成システムとなります。インスタント写真は「ポラロイド」や「チェキ」のように、撮ったその場ですぐに写真プリントができるシステムのことです。「写ルンです」のようにカメラ無しで手軽に写真が撮れるレンズ付きフィルムはネガ・ポジシステムであり、インスタント写真には含めません。

インスタント写真もその写真が写る原理は銀塩写真システムと同じです。違いは感光材料中に現像液が含まれているということと、感光部と受像部という2層構造になっており、像を作る物質が感光部から受像部へ拡散して転写される拡散転写法をとっていることです。撮影後感光材料をローラーに通して現像液の入った小さな袋を押しつぶし、現像液を感光材料全面に広げてやると現像が開始されます。

白黒のインスタント写真では現像液に定着液成分が含まれています。露光部ではハロゲン化銀微結晶は現像されて銀粒子となりネガ像ができますが、未露光部では現像されないハロゲン化銀微結晶が定着液成分に溶解され、これが受像部へ拡散します。受像部はハロゲン化銀を銀に還元する作用を持たせてあります。溶解したハロゲン化銀が拡散してくると、そこで銀原子となり、未露光部が黒くなるポジ像が形成され、像が受像部に転写されます。

カラー写真ではいくつかの方式がとられています。一つは各感光層の補色となる色素が現像主薬と結合した薬剤が感光層に含まれています。乾燥状態ではこの薬剤は固定されていて、拡散しません。露光後カプセルが潰されて感光層に液が浸透すると膜が膨潤して動けるようになり、未露光部では薬剤が受像層へ拡散して,薬剤中の色素により着色してポジ像を作ります。露光部では現像が始まり、現像主薬が酸化されますが、そうするとこの薬剤は不溶性となって膜中を動けなくなり、色素は拡散できなくなります。

別の方法では、あらかじめハロゲン化銀微結晶はすべて現像されるようにしておいて、光が当たるとこの能力が失われるように作られています。露光後に現像液を展開すると、未露光部の現像が進行し、生じた現像主薬の酸化生成物Ox.が発色現像を起こして色素を形成します。この色素が受像層に拡散して、そこにカラー画像が発現します。

像は受像部に形成されます。現像時に受像部と感光部を貼り合わせて現像し、終了後両者を剥離して受像部だけとするピールアパート方式と、感光部と受像部が一体となっていて、受像部の裏側から像を観察し、反対側に感光部が残ったままになるモノシート方式との2つがあります。

通常のネガ・ポジシステムでは、現像液などに含まれる薬剤は、最後の水洗の工程で除去されます。インスタント写真では現像に使われた各種の薬剤やその反応生成物が残っているので、保存性の上では不利になります。


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