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写真の保存と保護のための写真の基礎

写真の保存と保護のための写真の基礎
データとしての写真ではなく、モノとしての写真の保存と保護を考える。
久下謙一(千葉大学)

プロフィール

1952年生まれ、京都大学工学部卒、工学博士
千葉大学工学部で写真化学・画像科学の分野で教育・研究を行う。
2018年千葉大学名誉教授
銀塩写真を専門とする生き残りの一人、現在も原子核乾板や写真の保存などの銀塩写真関連分野で研究や研究の助言を行っている。
日本写真学会元副会長、日本写真学会誌元編集委員長、写真の百科事典(朝倉書店)編集委員長

「記憶を記録として留めておきたい」 これは知能を持ち始めた人類の古くからの願望の一つでした。文字を発明することで人類は物語を記録することができるようになり、稗田阿礼の役目は終わりました。しかしながら、情景を像として記録したいという願望は、近代科学技術が進歩する19世紀まで待たねばなりませんでした。

「像を記録する」 そのためには3つの機能要素が必要でした。

  • ① 検知: 像の存在を検知する。
  • ② 記憶: 検知した像情報を記憶しておく。
  • ③ 表示: 記憶されている像情報を人間が見える形に表示する。

人間の眼と脳は検知と記憶までの機能は持っていますが、表示の機能が不完全でした。見たものを見たままに表示することができなかったのです。見たものを見たままに記録するための技術が追求され、19世紀に入って写真術が誕生し、進化を遂げて今日にいたっています。

そして今日、その写真をさらに後世にいかにして伝えていくかという問題に直面しています。写真は画像が表示されたモノです。形あるものはいつかは滅します。写真も例外ではありません。デジタル化の進歩で写真もデータになりましたが、人間はそのデータを何らかの形でモノの上に表示しないと認知することができません。そのモノとしての写真をいかにして保存していくかを考えます。

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