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写真の保存と保護のための写真の基礎

2 銀塩写真の像ができる原理の詳細

2.5 定着: 像の固定

定着は像の固定であり、現像によって可視化された顕像を変化しない形にすることです。像の未露光部には現像処理後もハロゲン化銀微結晶がそのまま残っています。そこで現像直後にハロゲン化銀を溶解除去する操作が定着です。

ハロゲン化銀は難溶性で、溶解する能力を持った物質は限られてきます。現在使われているのは銀イオンと可溶性の錯体を形成する、チオ硫酸ナトリウムNa2S2O3などのチオ硫酸塩です。

未露光部のハロゲン化銀はチオ硫酸塩と錯体を作って溶解し、不溶性の銀原子が残って、像が鮮明に固定されます。

チオ硫酸イオンはあまり安定ではなく、徐々に亜硫酸イオンSO32-と固体の硫黄Sとに分解します。

古い定着液が白く濁るのは分解した硫黄が析出するためであり、この反応を抑えるために多くの定着液には亜硫酸塩が添加されています。

2.6 カラー画像: 色分解の原理とカラー画像形成

画像は明暗と色の2つの要素でできています。白黒写真は像の持つ明暗を白黒の階調で表現していますが、色の情報は含まれていません。色情報も含めた写真画像を得るために、カラー写真の技術が開発されました。

2.6.1 色の認識

人間は色を図1-9に示したように、青・緑・赤の3原色に分解して認識しています。これは人間の眼の中の光を感じる視細胞が3種類あり、それぞれ青・緑・赤の光に感度を持っているからです。カラー写真のシステムにおいても、可視光を眼と同じ青・緑・赤の3つの領域に分けて記録することで、色情報を記録しています。

可視光は青・緑・赤の3つの原色に分けられますが、逆にこの3原色の光を重ね合わせることで、いろいろの色の光を作ることができます。これを加色法と言います。3原色の青・緑・赤のうちの2つの色の光を重ねると、イエロー・マゼンタ・シアンの光になり、3つの原色の光を重ねると白色光になります。加色法による色の関係を図2-6に示します。

図 2-6 加色法の3原色と色の関係; 
青・緑・赤の光を白いスクリーンに映したとき、重なった部分に表示される色を示す。
B:青、 G:緑、 R:赤、 C:シアン、 M:マゼンタ、 Y:イエロー、 W:白

一方、白い紙や布をインキや染料で染めると、紙や布に入射した可視光のうちインキや染料で吸収された色の残りの光が出てきます。白色光から青色の光が吸収されると、人間の眼は残りの光をイエローとして認識します。同様に緑の光が吸収された残りの光をマゼンタに、赤色の光が吸収された残りの光をシアンの色として認識します。このイエロー・シアン・マゼンタの3つの色を減色法の3原色といいます。イエロー・マゼンタ・シアンのインクのうち、2色のインクを重ねると青・緑・赤色になります。3つの色のインクを重ねると黒色になります。減色法による色の見え方の関係を図2-7に示します。また、シアン・マゼンタ・イエローのインクで印刷したとき、重なった部分に表示される色の関係を図2-8に示します。イエローの部分では青色の光が吸収されます。逆にマゼンタとシアンの両方の光が吸収されると、3原色のうちの青色が残ることになります。これはインクジェットプリンタの発色の原理と同じです。カラー写真においても後の2.6.3で示すように、乳剤層をシアン・マゼンタ・イエローに発色させて、それらの層を重ねて観察することで色を表示しています。

図 2-7 減色法の3原色と色の関係; 
シアン・マゼンタ・イエローのインクで印刷したとき、重なった部分に表示される色を示す。
B:青、 G:緑、 R:赤、 C:シアン、 M:マゼンタ、 Y:イエロー、 W:白、 Bk:黒

図 2-8 インクジェットプリンタでのインクの色と印刷部の発色の原理

青とイエロー、緑とマゼンタ、赤とシアンのように、重ね合わせると加色法で白色、減色法で黒色になる色の組み合わせを、お互い補色の関係にあるといいます。

2.6.2 カラー写真システムでの色の検知

前の1.2.4で述べたようにハロゲン化銀そのものは青色の短波長の光にしか感度を持ちません。そのため緑や赤の長波長の光を吸収する色素をハロゲン化銀微結晶の表面に吸着させます。色素は吸収した光のエネルギーをハロゲン化銀に伝達して、このエネルギーでハロゲン化銀微結晶はその中に潜像核を作り、長波長光への感度を得ます。こうして白色光の全波長域に感度を持つパンクロ感光材料が得られました。

青・緑・赤それぞれの光に感度を持つ感光材料を調製し、それぞれの分光感度に対応する青・緑・赤色のフィルターをかけて露光すると、対応する原色の光に対応した潜像核が各感光材料に作られるので、青・緑・赤の光に対応した潜像核を持つハロゲン化銀微結晶が乳剤層内に分布して、色情報が記録されます。

今日のカラー写真システムでは、青・緑・赤のそれぞれの光に対して感じる乳剤を重ねた3層構造の感光材料を用いています。カラーネガフィルムの断面の写真を図2-9に示します。上から青の光に感じる青感層、青の光を吸収する黄色フィルター、緑の光に感じる緑感層、赤の光に感じる赤感層などが重なった多層構造になっています。黄色フィルターを入れるのは、ハロゲン化銀自身は元々青色光に感度を持っているので、緑感層や赤感層が青色の光で感光しないようにするためです。感光層ごとに元の像の色情報が、青・緑・赤色の3原色に分解した色情報として記録されることになります。

図 2-9 撮影用カラーネガフィルムの断面の顕微鏡写真
(大関勝久、「写真の百科事典」、編集 久下謙一、朝倉書店、東京、2014、p200)


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