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折りたたむ

　しかしパリで出会った洋画家の山本芳翠や藤雅三、美術商・林忠正との交流は、黒田の眠っていた画心を掻き立てることになる。明治19（1886）年5月には「今般天性ノ好ム処ニ基キ断然画学修業ト決心仕候」と義父に手紙で画家になる決心を伝え、翌年8月には法律家としての道を捨て画業に専心する旨を告げている。志を新たにした黒田が画技を学ぶべく入門したのは、すでに藤雅三が師事し黒田もその通訳をつとめていたという縁もあって、当時牧歌的な裸婦像により画壇での成功を手中に収めていたアカデミスムの画家、ラファエル・コランであった。黒田はまた生涯の友となる久米桂一郎と知りあい、コランのもとでともに研鑽を積むことになる。

　その頃の西洋画学習の基本は人体デッサンであり、黒田もコランの指導の下、モデルを前に一心に取り組んだ。現在も残るおびただしい数のデッサンはその徹底ぶりを伝えるとともに、黒田がそれらを画嚢として後々まで大事にしていたことをうかがわせる。油彩による習作（18～23）も数点残されており、明治26（1893）年に帰国した後、裸体画の重要性を強硬に主張して、いわゆる裸体画論争を引き起こした信念の礎をここに見てとることができる。

　そのいっぽうで農家の一隅を描いた《田舎屋》（明治21（1888）年作）のような作品を、黒田はかなり早くから手がけている。こうした農村の日常をみつめた画はジャン=フランソワ・ミレーらバルビゾン派への傾倒を匂わせ、その後のグレー村での画作、さらには黒田の生涯に通底する情感のこもった眼差しが、この頃からすでに芽生えていたとみてよいだろう。