黒田氏は油絵の小品数枚とパステル画の二三を出品して居る、油絵では「庭前の雪」「春の草原」「初秋」等何れも嬉しい情緒のある小品である、淡い高雅なる色調の中に甞て目賭した自然をよく味ふことの出来るのを私は嬉しく思ふ。パステル画では「森の中」を採りたい、素朴な筆致がよいと思ふのである、岡田三郎助氏の画稿二枚の内では「少女」がよいと思ふ、写されたる顔の印象も筆致も自然である。
旅行スケツチ数枚を陳列して居る中沢弘光氏は外に数枚の油絵もある、小品の中では海を背景として居る「婦人」がよいと思ふ。瀟洒な優美な心持が遺憾なく描き出されて居る、唯海の色が少し強いのが画面の統一を破て居る感がある。「斜陽」は氏が時々選ぶ自然の見附け処の一つである。枯木に隠れたる太陽の四辺に照る光はモツト主観的に写された方が寧ろ自然の感興に吾々が接するものに近からう「馬酔木の花」や「柿」は私が接する自然の心持と異て居る。長原止水氏の作は「新聞」がある。緑の庭を背にして新聞を読みつゝある女の顔は甚だ自然である。何処となし大まかな技術と、自然を自然として写された感興とが調和して居る、「夕凪」「漁火」等は山本森之助氏の大作である。氏の風景画は近来甚だ自然に遠ざかツて居る。私は以前描かれた氏の緊張した自然の風景画に接することの出来ないのを甚だ遺憾に思ふ。モツト率直に自然を解釈したい、モツト感興に乗じて筆を執りたい。跡見泰氏の数作の中では「岬」がよい。岡野栄氏の出品中では「躑躅」を採る、二三の富士の画には惰気がある。
藤島武二氏、湯浅一郎氏の滞欧中の作物は甚だ多い。藤島氏の二十余枚の「紀念スケツチ」は悉く風景である。大きいブラツシと渋い色とで描かれて居る処に興味がある。湯浅氏の数枚の人物画の肉体はあまりに硬い。風景「公園」は皆即興的に描かれて居るので甚だ気持よく思ふ、氏には外に水彩画の数枚がある「サンマルチン橋」「サンインヅロ寺」等に感興がある。
ヴエラスケスの四枚の画は何れも湯浅氏の模したものである。今原画は見ることが出来ぬので模写の技術を云々することが出来ぬと共に、此処に出品されたる模写によつてヴエラスケスを充分知ることは出来ぬ。
ピービース、ド、シヤヴアンの画は藤島氏の模したものである、シヤヴアンの壁画中の一部づゝを集め模したといふことである。ラフアエル、コランの数枚の素描、コルモンの画稿等は何れも特長があり我画界には珍らしい参考品である。