秋季絵画展覧会巡覧記(六)白馬会(続)

  • ○生、△生
  • 読売新聞
  • 1903(明治36)/10/10
  • 1
  • 展評

○「藤島氏の諧音ハ尋常の出来だが肉色が強すぎるやうだ。」
△「諧音といふけれど、あのぼんやりした顔付きで、あの楽器の持方でハ諧音ハ出まいよ。」
○「岡田氏の仁和寺の古門ハ傑作の中で、石壁の色どりハ言分ないが、樹木が劣つてゐる。殊に上の方が筆力甚だ弱く見える。これハまづ場所の選択のよい方だ。」
△「三宅氏の水彩画の中でハ、殊に雨後の森がよい。中沢氏のも中々才気が溢れて前途有望の感じがする。湯浅氏のもよい。」
△「中村精十郎氏の細径ハ筆ハ利いてゐるが、色が沈みすぎて興が醒めるやうだ。岡田氏の土浦の夕ハ価値なし。」
○「青木氏の空想画ハ草稿だが、白馬会にこんな絵を画かうとする人があるとハ異様に思はれる。巧拙ハ兎に角土臭い写実ばかりに苦労して、これを芸術の全部だと思つてゐるらしい団体の中に、超自然の事に手を付けやうとする人のあるのハ喜ばしい。」
△「与茂都比良坂が最も優れてゐるやうだ。日本画家にすらこんな好題目に筆を執らうとする人のなくて、凡庸の山水や花鳥を相変らず型通りに画き、洋画家ハ裸体とか森とか山とかを外人の碧い眼で見た通りに見て絵かうと勉めてゐるのだから、下手だつて少々見當違ひしたつて遠慮しないで、類の異たものをやるがよいさ。」
○「余ハ後日見直すことにして、評判の裸体画をざつと評しやう。」
△「裸体画に関する根本問題ハ後日に譲つて、一口評をやれバ、黒田氏のハ上品でイヤらしい所がなくて大家の筆らしいが、智情意以来別に進歩した所も見えぬのが残念だ。春の方がきまり過ぎて劣つてゐる。色も悪い。岡田氏の花の香ハ左の人間がふうわりとして肉が生きてゐる。」
○「黒田氏のハ秋の方が一層思邪ないやうだ。併し岡田氏のが優つてゐるやうだ。全体裸体画ハいつも背景によつて不自然な感じがして興味を殺ぐ。これが神だとか仏だとかいふのならバよいが、草原や鏡の前に丸裸の美女が突立つてゐるのでハ実感を挑発するのが本當だと思ふ。又挑発したつてよい。」(つゞく)

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