◎白馬会（つゞき）
素より目慣れざる余輩にハ、どの画もどの画も一様に見えて明に善悪高下の解ろう筈ハなく、よし又少しく其差別の判ぜらるれバとて、何れハ斯る会場に出陳して雄々しくも公衆の観覧に供するものなれバ、一夜作りの駄作悪作を展列して衆目を汚すが如き作家ハ、啻に此会のみならず、各種の展覧会共進会などにもあるべきの理にあらず。されバ其画を紹介するものも亦作家に対するの禮を守りて執実に其責務を盡すべく、猥りに其画に就て毀誉褒貶を逞ふすべからずと思ひてハ、容易に筆の起つべくもあらず。場内列品三百九十余点のうち、最も人立の多く是非の声喧しき作品に就て聊か裁断を試むるに止むとす。
形の大なるものハ其小なるものよりハ、比較的衆目を惹き易く且其長所短所も判然すれバ素人にも直に是非ハ判ぜらるべし。今場内最大のものといへバ△難破船救助の画なり、作家ハ小林萬吾氏にて、水難救済会の依頼に応じ其壁画にとて稿を起せしもの、未成画なれバ作家が今後の参考にもと感ずる所をいへバ、多数裸体人物の動作ハ如何にも詳細に描写せられたれども、其動作や機械的動作にして未だ同情を以て難破船を救助するといふ表情の見るべきなく、且や其四辺の景致も未成画の故なれバにや、惨澹蕭索の光景全幅に充実せざれバ、未だ以て観者の同情を惹くに至らず、況んや日本画に見る平板の病処ハ此画に於ても認識せらるゝ憾あるハ返へす返へすも残念の限りなり。聞く所によれバ成画の暁ハ五回博覧会へ出品さるゝとのことなれバ、今より詳細を下さむハ烏滸の至りなるべし。「縮図参看」 （仏）