白馬会展覧会投書評

  • 毎日新聞
  • 1900(明治33)/10/14
  • 1
  • 展評

◎此回は北連蔵湯浅一郎の両氏割合に淋しく存ぜられ候矢崎千代次氏は近頃大分元気にて嬉しく存じ候此人の絵は光線を面白く用ゆるなど のことはなけれど其代り中々画面奇麗にして俗受けには持つて来いと云ふ方、 此度の小娘、草花の中の小娘など約定済の札が附きさうに存じ候此後者の作など先づ佳なれど余り一面に埋め過ぎありて趣味なきは遺憾に候肖像は此人得意の様なれど顔の絵の具少々生にてからりと致さゞる心地被致候 鸚鵡の美人此中で最も見らるゝ様に候(ラビー)
◎山本森之助氏のア ンプレツシヨニスト的風景画非常に面白し余は藤島氏の並木よりも此方を取るべし。出口 清三郎氏の花売図に締りたる処なく所謂引き延し写真の方にて何となく間 の延びた所あり而して左右がまだありたるものを切離したるかの様見へて一の纏 りたる図としては不感服なり之を小さく画きたらんには見られたるやも知れず植木屋の 背中などもまづし此を白瀧氏の花嫁と比べて会中の出色などゝ評せし人あるは少 しく読洋画の眼ある者は呆れたることなるべし比較も此位間違へば一層滑稽 也
◎黒田清輝氏は小品のみなるが例として富士の図多きが中に一五四号の筆面 白く見られたり漁婦氏の技倆を窺ふに足るべし和田英作氏の婦人の横顔少々病人の気色なりとて素人の吾れ吾れは申合へり岡山三郎助氏の風景此頃洋行中とのことなるが道理で西洋人の画臭き所あり安藤仲太郎氏の夕陽此人は彼 の巴里出品の画以来斯様なパアツとした海浜の景に夕陽とか曙とかを使ふを以てたあいなく多数客の眼に「いゝ画だ」を映ぜしむるを以て一種 の秘訣と心得られるが如しと見たは僻が目か(台麓生)
◎大分白瀧氏の花嫁評判よきやうなるが後ろに立ツて居る女馬鹿に大き過ぎずや老婆の顔最もよ しと思ふ鏡台に指輪の入れてあつた箱を置いたは画家の働きといふべし昨日の投書に磯野某の瞽者を非難してあつたが生も同感其布置何も彼も正面なるは趣向のない写真師のお手際よろしくである(緑山生)
◎場中奥の方 で小林萬吾氏の門附けは地べたが一番の欠点だぶくぶくとして柔かいものゝ様で地とは見 へない入口の方で塩見某の作には後来望を嘱するに足りるのが多い(S 生)
◎藤島氏の浴後は後ろが兎角ハツキリしない青い所はカルテインと見ても其外の黄ろい所は何んだかさつぱり分らない右足の義足的なるは裸美君に同感である 浴衣は縮緬か木綿か伺ひたし(XY)
◎好きモデルを撰ぶは最も肝心な るが藤島氏の浴後の美人も近頃の好モデルと存候品もあるところ何よりに候此モデルの顔 正面と側面とは所謂月鼈の差あり正面採るべからず側面固より採 るべし作者が此側を用ひたるは活きたるモデルの使ひ方と称すべしと書生らしき人評し居候事実に候哉教えを乞ふ(立聴生)

前の記事
次の記事
to page top