白馬会投書評(三)

  • 毎日新聞
  • 1900(明治33)/10/10
  • 1
  • 展評

◎未だ新聞の評に見へざる出品に付二三言を寄すべし磯野吉雄氏の瞽者はれ いれいと目に立ちて却て困りものなり彼の色調は何となく快からずソレに不思議なは腰を掛けて居る所でありながら其腰の台になツて居るものがない是れでご當人 は草の堤の積りにや絵空事とは大方此事なるべし。中沢弘光氏の朝顔は女 はなかなかよく出来て居るが朝顔の鉢が少々張子的鉢で両手で押 せば潰れ左様。湯浅一郎氏の逗子の村は水中に映ぜる工合其外全体に宜し。矢崎千之助 氏の鸚鵡の美人は同氏の女の人物中にて最も穏やかに見られたり。中村勝次郎氏 の林檎■りは子供の手附き弓を引き居るやうにて此題に適したる手の働かし方 にあらずソレに光線が少しも無きやうなるは感服せず他はおいおい(緑山生)
◎ 上野は明治美術会、無声会さては白馬会と軒を並べ紅白 の旗金風に瓢へさせて客を競へるさま賑はし明治美術会は例に依て例の通りとの噂素通りしてお隣の無声会に入りしがそこそこに出て白馬会 へ飛込み申候少々お宗旨違ひにて稍や面喰ひの体なきにしも非 ざりしが陳列の按配例年より一層整頓した所あるにや少し気持よく 感じ申候入場第一小生(恐くは何人もなるべし)の眼を惹きたるは 美人の画にて其中にも白瀧氏の花嫁全く感心致候花嫁の嬉し恥かしといふ六ツケしき所の恋情よくも穿ちて画いたもの哉黒人の方は何んと言 はるゝか知らぬが此丈けの大作を何んの苦もなくやつて退けたは大抵な仕事に あらず其他中沢氏の朝顔の美人矢崎氏の小娘可愛らしき所気に入 り申候小生は美人専門ゆゑ投書も此に止め申候
◎近 頃めツきりと上達した中沢弘光氏の人物中では朝顔の美人先づ見られる手に持ち居 る鉢も少しくいびつなるが後ろに見ゆる地上の鉢は遠近を失ひ余り 小さ過ぎた、■影の美人は何ふも写真か小説の口絵にありさうで図に自然の趣味 がない、大方紫式部の石山寺と香爐峯の雪簾をかゝげて見るなどか ら割出して脳裏に、こんな図を画いてやろうかなと急に筆を把つたのであろう併し斯 ふ云ふのが多く多数の客の気に入り売品になるのだ此の簾下の女兎角生意気 らしゝ横座りしつ手でかゝげ居る簾は捲かれて居るとも見へず、半簾にて別段手であげる必要もなき様なるは滑稽滑稽花園の美人イヤ綿密に写 したことかな殊に奇麗でコローム版の画にでもありさうである(麹街生)

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