白馬会展覧会を観る(一)

  • 湖人
  • 東京朝日新聞
  • 1898(明治31)/10/11
  • 3
  • 展評

上野公園旧博覧会第五号館跡に開かる余の観たるハ去八日にて出 品の未だ到着せざる者あり従て画題も記しあらずと雖も大体に於てハ欠くる所あらざるが如きを以て少しく素人評を試みんと欲 す
会場を一巡りしたる所にて精妙に感ずるもの固より有り而か も拙劣観るに足らざるものも寡からざるが先づ飽足らぬ心地するハ種類の乏 しきことなり換言すれバ画料として取りし題目に変化少きことこれ也試 みに見よ展覧場の入口より出口に至る迄二段三段若しくハ四五段に掛け連ねたる所のもの多くハ之れ田舎の光景にして人物花卉太だ少く人物も歴史物ハ皆無にして亦都会の景色の如き一枚も見當らず僅かに不忍池辺の光景を画きたるものあるのみ油絵にてハ歴史物 が書けぬと云ふわけもなけれバ都会の光景が写せぬといふ次第もなからんに揃 も揃て田舎の自然ばかりを写さんとハ着眼の狭少なるを感ぜずんバあらず余ハ返す返すも諸君が更らに画料を取るに広からんことを望まざるを得ず
今回の 出品中黒田清輝氏の「昔語」を以て最も大なるものと為し且つ 呼物ハ固より此画なるべしされど余ハ此画に感服すること克はざるを悲しむ余 が感服せざる第一の点ハ全体の着色何となくねぼけ色にして且人物 の皮膚黒づみ勝なるに在り第二の点ハ婦人の髪の萌えぎは余り画然として宛も鬘を冠りたるが如く見ゆるに在り第三の点ハ左方遥かに見 ゆる寺の門が如何にも不自然にして芝居の書割の如く見ゆるに在り 第四の点ハ僧の前に立つ男の骨相が京都的に非ずして寧ろ 東京的なるに在り(これハ始めより関東者を画きたるかも知れず)余ハ必ずしも此画を以て取るに足らざるものなりとハ云はず今回の出品中力を用 ひしことハ固より第一たるを認むと云ふと雖もそハ力を用ひたるの大なるを賞 する迄にして画品の良否に至りてハ寧ろ之を他に取らんと欲す

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