白馬会展覧会略評(三)

  • 守中居士
  • 国民新聞
  • 1897(明治30)/11/11
  • 4
  • 展評

安藤仲太郎氏の「曙」は海上泊舟の間破卵の天を描ける大幅なり、まことにこの画に対すれば神気豁濶、曙光の紅雲粲として人眼を奪ふ、唯憾むべきは前景の波 の波らしからざると炊煙の妙ならざるにあり。「京都の朝」朝霧深き鴨川に日光の照映せしなどやゝ繊巧に失すれども清新の気は外に溢れて喜ぶべき逸品なり。 「郊外」の雪景寒冷の気満ちて無難なる佳作とす。「鳩山議長の肖像」こは美術といはんよりも写真を引き延ばしたるものといふべきにや、且その筋肉の締らざ るなど嫌ふ可し。
小代為重氏「墓場の暮」悲しき淋しき景趣描写して佳なり、但しその人物をあまりに薄く絵かれしため墓場なれば幽霊ならずやなど許せし人 ありき。「芝浦のはぜ釣り」、「国府津海岸」両者ともに同一の落想にして白く光りたる裡に黒き人物を画きて調和を欠かざりしは妙とすべきなり。
中村勝次 郎氏「隅田の雨」洋々汨々たる大江一の舟を描かず纔に一端に木葉と堤とを写し看者をして雨を知らしめたるは感服の外なし。「庭園」又佳作ながら草の日光に あたりたるもの、やゝ黄草の如く見ゆるを瑕とす。
丹羽禮介氏の「秋」秋風落寞たる情趣よく表はれたれど後景の一直線なると吹笛せる人物今一段の洗練を要 す。
佐野昭氏既に世間の知る如く可美真手命の彫像を作りて好評を博せし彫刻家なるにこゝに油絵数点を出品せられ而かも「秋景」の如き専門家も容易になし 能はざる佳作あり、氏も亦多芸なる人かな。
小林萬吾氏の出品中「蝉とり」は総て平板に失し。「郊外小春」は布置穏妥ならざれどもまづ小春の趣を表せり。
中沢弘光氏「汐干狩」布置色彩与に可にして活動も乏しからず、望蜀の欲はこのまゝに大幅になしたきことなり。
北蓮蔵氏出品二十余点を通じて吾人は氏に 病癖あるを見たりき、そは全体に色彩重厚にして洗練を経ざるものゝ如く一種厭ふべき暗黒色を含めり、且最も注意を促すべきは今少しく絵画に忠実ならんこと なり、その「魚売」を見よ、色彩の鮮明ならざる魚売の男の肴を切りつゝある生趣なきなどその病所少なしとせず、かゝる大作をなさんとせば今一層の細心と修 養を要するなり、されど「雨後月」は家屋や人物や皆薄暮雨霽れたる中にある如くよく題意を現せり、その他「残雪」「森」は見るべきの佳作。

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