白馬会展覧会概評(六)

  • 牛門生
  • 毎日新聞
  • 1902(明治35)/10/24
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  • 展評

◎今年の会で最も気焔を吐き居るは岡田助三郎氏にて、一方の壁の大半を占め、特に一人にて裸体を四点まで出して居るのは是迄になき壮観である、初夏盛夏何れも花中の裸体画であるが、初夏は少し体をねぢッた工合など六ッケしさうな処を巧みに画き了せて居た線のすらりとしたる、紅色を添してからりとした明快なる人物を出したる、花の一二ケ所に紫色紅色を点じて全幅の色を締り、調子を取りたる、其外ともにソツは無かッた、盛夏は四辺の空気を一層乾燥ならしめ午夏のさまを見せて居る。最も予の好みに投じたは読書にてすらりとした線の外に、顔なども淡々筆を着けて何とも云はれぬ趣味を有たせ、髪の毛などもうまく徃つて居る、傍に紫の布れを置き此一点色にて全体を引立たせて居た、少婦は裸体の半身で穏かに出来て居た少女と題するは一少女の天を仰いで失恋を嘆ずるが如き有様を描いたもので其情は申分なく発揮せられ顔など実にうまく徃ッて居た此と老翁とは、所謂筆に千鈞の力ある者か、旅の紀念其外の小品何れも面白いことであッた
◎黒田清輝氏は飴売を画題に捉へ来りて大作を出すとの噂もあッたが、時日が許さなかッたそうで海花林等の小品六点を掲げて居る、何れも清健なる筆を以て淡々描き去り、而かも苟くもしないので依然佳作たるを失はない、海の中では(二六九)が最も面白く感ぜられた、
◎山本芳翠氏は伊藤さんの肖像を出したが中々親切に画いてあッて、尚ほ其神采の生動せる如きは同氏近業中の傑作であろう
◎中沢弘光氏の箱根の山駕篭は画題も面白く図の組立も少し込んで居るので多少骨折ッた作とおもふが、遠近も附き居らずして総体に究屈を極めて居る、手前に立つて居る女中はよく出来て居た駕篭屋の爺は顔が余り真面目で何ふやら女中の相見でもして居るらしく、此駕篭が又少しくイビツの様であッた、木や岩の色は生々しく少し造り物の景色があッた
◎矢崎千代治氏の点紅は画題が面白い、人物は例の素人受に好さゝうな画方である、此人の画は総じて少し洗ッたやうな気味がある紅を点けて居る右の手は少し短かく見へる小品中では晩村が好いかと思ッた

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