白馬会展覧会概評(五)

  • 牛門生
  • 毎日新聞
  • 1902(明治35)/10/23
  • 1
  • 展評

◎此処で次の一と画りに入る前に、向ふ側の湯浅一郎氏の画を見たから順に拘はらず評しよう、同氏は中々研究家のことゝて人物も裸体を二三度出したが、何ふも感服しなかッた、其反対に風景は追々面白くなッて来たところを、今年は色の研究夫れ夫れに見へて十数点の作はいづれも捨て難い所がある、日の出、漁舟、高芝、落陽、城山、午後の溜池など黄色を巧みに用ひて誠に味のある作を出された、葵橋の雨も雨中の景情充分に現はれ、色も紅を一二ケ所に点じて全幅に生采を与へて居るが、其中馬の前に徃くのは一体何物だか少しも分らない、漁舟は海の黄なる、船の影の青きなど面白く、調子も整ッて居る、磯は海の色、磯の影など共につよき色を使ひ磯の画き方も筆強くしてよかッた(三〇二)の岩の間の波(三〇六)の前景の浪は、いづれも終に浪たることを判じ得なかッた、海士は佳作たるを失はないが、海士の右足は左りの方から出て居るやうだ、(三一二)の疊島は両岸の間の漣がよく写せて居た、燈下読書も題意がよく表はれて居た、
◎丹羽林平氏の五枚中では紅葉が先づ出来た方か、朝の海など一向に趣味を感じない
◎中村勝次郎氏のは何れも何れも生々しい色で感服しない、夕暮の如き絵の具計り大層要ッた事だろうと惜く思はれた、洗ひ場は比較的に好い、図も一寸面白い、
◎安藤仲太郎氏の夕陽、夕日を帯びた雲はお得意とでも申すべきか毎度見るやうだ、汀の水を少し離れて■になッた処は汀の水よりも高く見へ、■■でもあるやうに感ぜられた、山は最ほ少し筆にシッカリした所が欲しかッた、御殿場、幽静は一ト通り好いが、何分にも筆が弱く味も薄かッたは残念であつた、
◎藤島武二氏は近頃装飾画に指を染めて以来此種の作に掛けては多少会得する所ある様に見へる、天平時代の面影は半隻の屏風物にて未成稿とのことなるが総体に好く出来て居る、顔も自づと當代の相らしく全体の線もデコラチーブの上乗に徃き、立琴の縁など物質の説明も行届いて居る、後ろは金地といふ好みにて之に対すれば多少崇高の感じがするのはお手際であッた、向つて左りの襟が確かりして居ないので体からのべつに見へる嫌があるとおもふ、小品の中では雨後が一寸大きけれど特に雨後といふ感じはしない、夕映は一寸よく思はれた (牛門生)

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