白馬会を看る(四)

  • 三角子
  • 都新聞
  • 1910(明治43)/06/18
  • 1
  • 展評

跡見泰氏の作では三三0の「岬」が最も面白い、日の暖かく射つた犬吠の岬の感が心地好く出てゐる「泊船」は比較的大幅ではあるが構図が日本画式と云ふ一種の趣味があるので面白く、一部分宛に就て見ると水の波紋などに作つた所が多い、三三四の「入江」は小品中の傑である。
山本森之助氏の作は「夕凪」と「漁火」と「雨の山」の三枚だが三三五の「雨の山」が最も傑出してゐる、高い山に懸つた雨雲の晴れ間のちぎれちぎれになつた所などは最も巧に露れてゐるが、近景の草木が何と無く物足らぬ所がある、「漁火」は空の蒼つぽい雲が厭な気がするが一番巧いのも矢張雲である。
藤島武二氏の滞欧紀念スケツチの中にはいづれも最近仏国画界の傾向を示したもので面白いものが多いが三四四の湖水の画は全体の色の諧調が柔かいので面白く三四九の紅く輝く白帆、三五八、三六六の伊太利の風景等華やかな氏の色彩に一種の渋味が加はつて云ふ可からざる味はひがある。
黒田清輝氏の作では三六九の「花野」と題した女三人の画が矢張如何しても美しい「夏の月夜」の空の色も好く、庭前の雪の一筆々々に物を顕してゐる大膽なのも面白い、殊に毎年見る図であるが春の草原の柔かい画は氏独特の画でいつ見ても何の音も無い所を描いてゐて、然も画に対すると一種なつかしい味がある、中村勝治郎氏の作は小品の「残菊」が殊に好い様だ。
第六室の参考室にはホンタヂキー氏の女神、湯浅一郎氏模写のヴエラケス筆メニツポの像、エソツポの像、織女の図、官女の図の大幅がある、我等は幾多の日子を費して直接見る事の出来ぬ此等の大幅を紹介された湯浅氏の努力を感謝するのである、他にコウン氏筆の画稿、シヤバン筆壁画の一部を藤島氏が模写した鶏の図、コルモンの画稿等後進を益する所が多いと思はれる。
第七室加藤静児氏作四0四博物館の午後は元学習院跡を見た眼には怪しい程異つて見えるが、さりとて彼れが巧くて此れが拙いのでも無いので、之れが欠点はまだ描き足らぬ所にある、

前の記事
次の記事
to page top