白馬会を看る(二)

  • 三角子
  • 都新聞
  • 1910(明治43)/06/16
  • 1
  • 展評

六一、斎藤知雄氏の「寂しき秋」と六六の「山路」とは特色のある画だ、全面ヘラを使つたので色も汚れない所はあるが、全体の調子に一種の渋味のあるのが好い。六八、青山熊治氏の「アイヌ」は筆技の円熟が第一で、構図に於ても多大の成功を収めてゐる、夜間のアイヌ生活の一部が如何にも面白い、殊に中央の老人と其の左の女二人と少年とが巧に描かれてゐて右の画面の立つた人物と下の二人とは余り感服しない、又陰影になつた人物、器具其他総ての物が一種の陰気な緑色に包まれたのは少からず眼に厭な感を与へるが先づ場中屈指の作であつて、或は一昨年あたりの文部省展覧会にでも出たらば随分人気を呼び集めたらうと思はれるが惜い事である。
八九、熊谷守一氏の「轢死」はアイヌと並んで一異彩を放つてゐる、之も円熟した技倆が先づ眼に這入る、此の厭な難物の画題を好く如此描きこなして不快の感を与へない所が好い、殊に夜の人体の幽かな光に依つて伺つた色が実に巧に露れてゐる、此様いふ隠れたる美術的努力家に対して奨励する美術保護者は無いものかしらん。
第三室は見渡す所板の小品計り、然し此の小品に却て面白いものが多い、一四五近藤重一郎氏の「雪の夕」は柳の幹の手法など面白く、一七三藤田嗣治の「山より」は遠景が殊に好く、一七七太田三郎氏の「パンジー」は色の寒い汚い所はあるが花を描く手法に巧な所がある。
第四室二0八、水彩画「雨の晴れ間」は萬代恒志氏の作品中一位を占めるもので、雲煙のかゝつた山と近景の村落樹木に一種の味がある。
二一一「京都スケツチ」中沢弘光氏の作は雨中の橋を描いたものと二一五の「京都遊廓」とが面白い、温泉場の中では「伊豆山の湯瀧」を描いたものが洒落の中に味はひがある、二一四の油絵婦人は背景の海の冴た色が少し強過ぎるが女の面は濁らない善い色でやつてある、二二二柴田節蔵氏作「林檎」は桜より数等好い画であるが少し窮屈の感がする。

前の記事
次の記事
to page top