白馬会の出品点数六百余、場所の都合と出品者の多数との爲に、三四尺の物までも板と同様に二段に陳列したのは、看覧者の位置から謂つても作者の希望から云つても、如何しても見憎いと云ふ評は免れぬが、然も其の中から幾分でも眼に立つ様な作品は、適當の陳列をしたなら猶一層善く見えるであらうと思ふ。
太平洋画会の入口の華やかな割に中の作品の陰鬱なのに比すると、白馬会の入口の何の飾りも無くて中の作品の色彩が華麗なのとは面白い対照を露はしてゐる。
第一室二四「春の野」と題した住谷宗一氏の画は着衣が厭に重過る嫌ひはあるが面白い明暗の研究である、惜むらくは色が少し汚ない。
二六「落椿」、正宗得三郎氏の画は或批評家は大分褒め過ぎてゐるが、何も文学者の正宗白鳥君の作品が面白いからとて弟たる得三郎氏の何とも解らぬ作品をも褒めるにも及ぶまい、好いものは好い悪いものは悪いと明かな批判をするのが好いのである、落椿の画の如きは色と色との関係は単に色の愧として丈けで好いので物体の何物かと云ふ表示は何物も露はれてはゐないのだ、見た所では蓮華草位の小さな草花位にしか見えない、此様云ふ間違ひとは云へぬ不忠実の画を推賞するのはどうであらうか。
第二室三七、近藤芳男氏の「稲村たる画だ、遠景の混雑したのと近過ぎたのが欠点で、稲村の光と陰影の色から近景は心持の好い所がある、四七李岸氏の「朝」、大膽な色の見方と筆技とは清国人独特のものでは無く、附焼刃の観察法らしいが新時代の清国人としては此の位の突飛な遣り方の方が面白いと思ふ、五二、中野営三氏の「山路の夕」は遠景の山が一番溶けてゐて怪しいが、中景から下は面白い、五八の「砂浜」は構図に於て奇抜な所がある。