白馬会概評(二)

  • 報知新聞
  • 1905(明治38)/10/17
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  • 展評

△冬の山麓(中沢弘光筆) 雪を描ひたものも数ある中に、吾人 の注意を呼ぶものは湖上の吹雪と、この冬の山麓であつて、色と云ひ布置と云ひ見るから心地よき佳作である背景の山と樹林との関係が稍不明 瞭であると、僅かに見えて居る水面の距離が不充分であるために、何 となく奥行きに乏しいのは先づ此画の欠点であらうか
△湖上の吹雪 (山本森之助 筆) 自然に忠実なる研鑽者の一人として、此作者は夙に吾人の注目に値ひした人で、其の周到なる観察と精緻なる手法 とは今回の作にも現はれては居るが、此れは昨年の暮れ行く島に 比して優るあるや否やは、暫く疑問である、精緻の弊は小細工になり易 く、傅彩の変化なきは遂に不自然に陥るの患はないであらうか、今此作に 接して如上の感を作す所以敢て作者の再考を煩はしたいのである
△牧場の晩帰(和田三造筆) 場中面積の大を以て勝るも のは、赤松氏の朝の労働と、この牧場の晩帰である、而かも両々相対峙して、彼れは牛、是れは馬、共に同じく活動を描かんとしたものであるが、 赤松氏の全然失敗せるに反して、これは又多大の成功を示して居る、 面積の広い丈けに欠点も固より一にして足りない、人物の割合のいかゞはし きをはじめ、人と馬との距離の関係も不明確であるし、馬の解剖も今 一段と云ふ点が間々見えては居るが、是丈けの大作を是程に書きこなした 手腕は新進作家中他に其比を見ざる処で、作者が少壮意気の 盛なること往々人を呑まんとするの概がある、元来活動して居る動物 を写すことは、中々容易の業ではないのであつて、是迄吾邦の作家で、此方面に其筆を着けた人は断へてなかつたのである、にも拘はらず今此作者が邁進の勇を奮ひ百難を排して、この前人未踏の地に入り、開墾の第一 着手を染め得て、吾画界に貢献したるの功は決して没すべきにあらず、白 馬賞の月桂冠が此作者の有に帰すべきは、固より當然の報酬で毫も異とするに足りないのである

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