油絵と見物人

  • 萬朝報
  • 1903(明治36)/10/01
  • 3
  • 展評

目下上野で開場の白馬会と紫玉会、日々込み合ふ見物人の中、浅草珍世界を見る以上の敬意を以て油絵に対する者ハ幾人あらう、先づ日本人も△余程進歩した やうに思はるゝハ腹掛袢纏若しくハ七五三毛抜合せに三尺帯と云ふ連中が大枚五銭に一銭の下足料を奮発して続々入場するを見る事だ、所が口から先に生まれた彼等ハ誰も問はぬに入場の目的を広告する、「オイオイ、一件の絵ハ何処に在る」の大音声、是れが正直飾りの無い日本人の進歩である。それから△人の多く立ち停る絵 と流行らぬ医者の玄関と同じ淋しさを味ひて居る絵とがある、前者必ずしも名画で後者必ずしも拙画でハ無い、之に依つて知り得るハ今の多数の日本人が如何なる種類の油絵に趣味を有つか、今の多数の日本人の油絵を見る目ハドレ程進歩して居るかである是ハ一寸面白い問題だ(それはあした)

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