白馬会画評(四)

  • 都新聞
  • 1902(明治35)/10/14
  • 1
  • 展評

三井由太郎 秋の木立が先づ佳作だ調子の強い眼も輝く様な丈夫らしい画で荒く使つた筆に一種の奇才が顕はれて居るが、欠点も又其処に有るので筆使ひの為めに細かな研究が出来てゐない様で有る。小さいのでハ一一八の風景が佳作だ。
岡四郎 の人物、此様云ふ暗い画を此丈にこなすのハ中々困難な事で色も其程厭な感じが為ない、手に持た本が一番好く描てある、顔ハ些か濁つた色が有る。後ろのベツキの色が今少し奥深く見える様にして貰ひ度い。風景ハ樹蔭と云ふのが最も佳作だ。
高木誠一 の蛇骨川、或人ハ緑青を噴き出す山だと云つたが先づ其様とより外に云ひ様が無い此の画で好いのハ谷川に渡して有る橋だ。小品でハ雨と石階が無難だ。
柴崎恒信 の海ハ愚作だ、海の水も波も岩も好い加減な物だ、岩なぞハ恰で土細工の様だ、色もペンキの様な厭な臭が有る、小品の風景といふ菜の花の画が一番好い。
推塚修房 の春の雨と炎暑、春の雨の趣きハ実に好く描かれて有て雨に烟る森の色、雨中の花の霏々として散る様、濡れたる土の色、皆巧くこなして有るが極く近景の麦畑の色が些か調子をはづしてゐる。炎暑ハつまらぬ位置をつまらなく描いた物だ。
出口清三郎 の犬吠岬、岩が柔かくて豆腐の様だ、水の色も汚ない。
赤松麟作 の収穫、場中の大作中最も巧に描かれて居るのハ此の収穫で有る、秋の空ハ高く日ハ午後と覚しき斜の影を落し、遠山ハ鮮やかに蜒蜿として連り、下に敷く千町田ハ実り豊かに茅屋両三戸其の間にほの見えて鳴子の竹の所々に立てる傍にハ相対して稲を苅る者、半白の老爺ハ稲をこきながら今しも手を止めたる所、中央にハ田舎の小娘の、背に幼児を負つて余念なく立てる後からハ母と覚しき肥肉の女が紐を持て結ばうとする所を描いた物で、人物の配置から形、色に至る迄極めて好く描かれて有る、出来の上から云へバ、去年の夜汽車よりハ上の作で好くまとまつてハゐるが、個々に云へバ此の作にハ欠点が多い、第一、娘の顔に射つた日の光りが手拭の影の色の汚ないのや、遠山に荒く使つた黄い皺のペンキ色の様な厭味なのハ随分多いが然し見た処気持の好いのハ此の画の特色である。

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