○小林萬吾氏の小品中扶桑の森は空も森も一寸よく出来て居るが全体にパサパサして乾いたやうな画き方である、前の方の隴のやうなものが高か過ぎて居て隴と隴との間が余り近過ぎる様に見へる、波は（一０二）のが四枚の内で先づ好い様に思ッた、海の夕日であッたか松の枝のある画は海同ふやら水平に徃つて居ないやうだ、■■■■（判読不能）■■■■附いて居ない
三井由太郎氏の夏の河畔は河と見へず、岡四郎氏の稲毛の海浜は其四枚中では出来た方か、高木誠一氏の蛇骨川は蛇骨といふ程ありて気味が悪きまでに青い
○赤松麟作氏は昨年の展覧会に三等室の夜汽車を出して評判になつた人だが、今度も収獲と題する大作を出して居る、筆にのんびりとした思ひ切ッた所があつて前途が頼もしいやうに思はれる、而して意匠が何時も面白い、後ろに立ちて苗を蒔き居る如き女の横姿はよく働きが見へて居る、其前のは笠を冠り居る人の積りだろうが確かりして居ない、其前の老夫の手には働きが見へて居ない手拭を冠つた真中の女の左足は膝から下が逆に徃ッて居る、前の小女の背負ッて居る児は余りキマリ過ぎて面白くないが小女には、何とも云へぬ趣きが見へて居る手拭の結び影は一寸面白いが、余りキチンとして影に縁を取ッたやうなのは感服しない、横に立ッて此方を眺め居る女も気持が充分見へて居るので彼是れ田園自然の情趣があつて面白い、足などに光線の射ッて居る部分の色は汚なかッた、
○山本森之助氏は美術学校出身にて先年台湾に赴きし人なるが、今回の出品も相変らず同地の風景にて面白く、四枚の中琉球の燈台日中など最も好いやうだ、併し前回よりは淋しく感じた、
○小林鐘吉氏の庭の細径は庭といふ情趣の見へるやうに工夫したかつた、木小屋の蔭は一寸大きいが感服しない、芭蕉の葉も少しも空気も光線もない為め青い計りで困る上に立掛けてある木の板は芝居の舞台によく斯ンなのがある、鉋屑は人力車の前に布くものに斯ンな毛のがある、桃をむき居る少年の顔の色は余り心地よくない、投出して居る左足は膝から下が抜けてグタリと出て居る、今少し骨格に注意して貰いたい、全体に生動の気のないは遺憾である、
○白瀧幾之助氏の小品は二枚丈けだが山王台の夕陽の方がよいかと思つた、氏は■■■、化粧、蓄音器、婚禮等にて婦人画は奇体に手に入れられ何処となく観客に同情を寄せしむる妙がある、此度の通学の女学生も其通りで、顔其外の画き方は雅俗一様に受けて居るやうだ、衣物の模様なども手際なものだ、唯だ白地の方の肩から肩までの間だが稍や狭く究屈な感じがする、歩いて居る処から垣までの間は最ふ少し距離を見せて貰いたかッた （牛門生）