岡田三郎氏の油絵は二十七点もあるが、裸体画は何れも巧妙の出来 である、中にも「少婦」（二六一）の如きは顔貌体格から肉色に至るまで実 に言ふべからざる甘味がある、此等は到底日本画に於て見ることの出来ない所である。「初夏」（二四二）と「婦人の肖像」（二三九）は変つた描方で頗る面白 い、「盛夏」（二五二）はボンヤリした描方で前二図の黒ずんだのと相対照して 見ると一段の趣味がある、「雨後の夜色」（二五三）も佳作である。思ふに今回の出品中で和田岡田両氏の作が傑出して先輩の壘を摩する の手腕あることは衆目の認むる所であるやうだが、和田氏は練熟を以て、岡 田氏は才筆を以て、共に此境に達したのであらう、されば岡田氏の画 は筆致も色彩も変化極まりなく、意匠も頗る豊富であるが、其中には 亦何処となく筆の足らぬ所がありはしないかと思ふ感じが起らないでもない。
水彩画で衆目を惹ものは、いふ迄もなく三宅克己氏の作だらう。其出品は 十八点で、種々の描方を示した技倆は、流石多年海外に在つて斯術 を研究した丈けある、海外の作では「巴里セイヌ河畔冬の午後」（三一四） を始め、「夏の森」、（三二０）「巴里リユクサンブール公園」（三二三）など見るべき作 である、帰朝後の作では「月の出」（三二五）、「角筈村夏の午後」（三二七）が 最も面白い出来であると思ふ、吾人は氏の描方の変化したことを認むると同時に今後益斯術を研精し、所謂世界的水彩家たるの技倆 を現はさんことを切望するのである。
黒田清輝氏の出画は前にも云つ た如く、小品許りで格別評する程でもないと思ふが、パステル画の「雪」（三 三七）は佳作と思ふた。岡田三郎助氏のパステル画「婦人の肖像」（三四八）も感 心した。此他にも仔細に視ればまだ云ふ事も沢山あるだらうけれど、何分草卒の観覧であつたから、先づ此辺で切り上げて置かう。序に本会には 岡田氏のメダイヨンと色銅板、中丸氏のモザイク、長原藤島其他諸氏の表紙画 、仏国広告画など中々面白い出品があるが、中にも参考室の和蘭人の水彩画は頗る面白いものである、是は昔年故内田正雄氏が和蘭留学中に買求めたものださうだが、其陳列場所の具合にでもよる か、余り観者の注意を惹かぬやうである。
終りに一言したいのは、吾人が白馬会 に向つて、余りむき出しに、露骨に、而も容赦なく評言を加 へたのは甚失敬であるが、吾人は決して悪声を放つたのではない。夙に西洋画の研究に熱心なる此会に向かつては常に満腔の同情を有 するものである、只直言して忌まぬのは、備はらんことを此会に求むる吾人の微衷に外ならないのだから、幸ひにして一言の会員諸君に資益する所あれば幸甚 である。妄言多罪（鬼）