上野の絵画展覧会(上)

  • 中央新聞
  • 1901(明治34)/10/19
  • 1
  • 展評

上野公園第五号館にては目下美術院の絵画展覧会、日月会の 美術展覧会及び白馬会の三会とも開会中なるが孰れも日尚ほ 浅きを以て陳列品未だ出揃はざれども一昨日観覧せしまゝを紹介せんに
◎美術院展覧会
本年は未だ同派の牛耳を執れる大観、観山等の出 陳なき為め頗る寂寥を感ずると同時に駄作の多きに驚けり、其 中重なる者を挙ぐれば今尾景年氏の「松に雉子」は全体沈着あつて佳作、橋本雅邦氏の「蘆雁」は翁の作として見るべき価値なけれど別に非難する程の事なし、望月玉泉氏の「老松」は得意の作に非ざるべし、山本春挙氏の「富岳」は感服する能はざれど「雪松」は筆力雄健前者に優る数等、 野村文挙氏の「台湾神社」は精密なる写景にして台北円山公園より基隆河を隔てゝ剣潭山上なる同神社を望む所、観者をして粛然容を 改めしむ、上村松園女史の「背面美人」は相変らず達者に書きあれど、前年の「嫁 入」に比すれば劣れり、三宅呉橋氏の「黄瓜」は普通の出来上方の余白 は何の為めにや、菊池芳文氏の「桜」は何となく友染模様といふ観あり内海吉堂氏 の「竹」は先づアンナものか、中島醴泉氏の「白蓮」は写生的にして思ひ切つた画 なり、一寸観者の目を惹くべし
尚ほ同会へは追々左の出品あ る筈なりと
寺崎広業(小督局二幅対)橋本雅邦(泰謝安)下村観山(大狐鴉)菱田春草(未定)木村武山(義経)中島醴泉(暴風)尾竹国観(進軍) 同竹坡(桜田騒動)西郷孤月(未定)横山大観(同)
◎白馬会展覧会
意気込なかなか盛んにして其入 口の構造など頗る意匠を凝らせり出品は少けれど参考品として黒田氏の師事せし仏国画伯コラン氏の裸体画を始め西洋の彫刻塑像意匠図 案等をも備付け参考に資すべきもの多し赤松某の「夜行汽車下等室内の光景」は情況写し得て妙、但だ光線の具合にて室内画の如く見ゆると外景の余り明白過ぎるは面白くなし、大 塚正義氏の「郊外の晩色」は一寸目立ちし作なれど森の色青きに過ぐるは 悪し、和田英作氏の「深林」は一色の草色にて能く遠近を見せたる手際感ずべし、黒田清輝氏の「裸体美人」は場中の大作にて肉の置方最も佳な り、白瀧幾之助氏の「家庭の図は室の内外一寸見分け難き憾あれど人物 も能く出来青年の作としては感服、塩見某の「郊外塔を望む図」は雑草の生茂れる様如何にも真に迫り暗黒の樹木も非常に引締 れり、葉山某の「海岸」(水彩画)は見るべき作にて一帯に横はれる樹木と空 と水との三色の配合最も可なり

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