白馬会投書評(二)

  • 毎日新聞
  • 1900(明治33)/10/09
  • 1
  • 展評

◎久しく裸体画の評判なかりし処白馬会に出でたりと聞き見物致候此度は黒田画伯の智感情は巴里に洋行中のことゝて藤島武二といふ人の 浴後の美人代理を勤め居るといふ有様に候浴を出て台に腰掛けながら鋏 にて爪をとり居る図なるが上半部は体の骨格もよく指を反らして爪をとり居る一寸複雑した一部分も中々手際に出来申候ソレに顔 もよく櫛巻の髪も洗ひ髪のさばさばとしたるを束ねたる工合軽く写され光線の取り方もおもしろく此辺り飛附くほど宜敷覚へ申候遺憾なるは腰より下部に有之、殊に右足の画き方如何にも重くして稍や太く木 で造りし足をくツゝけたる様に思はれ左の足も何ふやら上半部と続 き居らざるが如く見へ申候股のあたりに掛けたる浴衣は堅くして全然物質の説明を欠き居候は如何致されたることかと案外に存候(裸美 )
◎(前略)白瀧氏の花嫁栄三郎といふ顔なり衣装の質も見へてよく殊 に後ろの女中の持ち居る襠の画き方は薄ツすらとしたやわらかなといふ心持を 充分にして写されたは感心母の抱いて居る小児の袖少しも皴なく何となく円きものを押つ附けたる如く見へ母の顔は筆甚だ弱き為め線 として認むべきものなきが如し毛糸をいぢり居る少女はさらりとした出来頚より上特に宜しく体 もよくはいり居れど其腕は少しもまるみなく薄ツぺらにして骨も肉もある腕とは見 へず」長原孝太郎氏の子守り氏の作中では近来の大物なるべしさらりとした筆の間に確かなる所あり彫色の工合光線のとり方好く相適ひ誠に面白し背負はれ居る小児のたあいなく寝て居るさま雑作なくよく其趣を写されたり 地上より足先きに掛けてのつよき影も面白きことなり。」小林萬吾氏の門附け男の後ろもかなり少しひねりたる工合可成に写されたり女太夫の持ち居る三味線の棹 は稍や短く見ゆ後ろのオカモチを携へながら見返り居る女の子の顔今少 し無邪気なるがよかるべし其足の甲の厚さを凡何寸なるや聞きたし(画 狂生)

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