白馬会投書評(一)

  • 毎日新聞
  • 1900(明治33)/10/08
  • 2
  • 展評

上野公園第五号館に開会中の白馬会展覧会は入口の左 右に翩翻と飄へる紅白の長旗辺囲を飾れる紫地の幔幕に アブラエ白馬会と記せし一種の書体にまぐさの画を添へたる緑色の看板など例つよりも亦一層賑やかにてソレに出品排置の上手なるは毎回世間の定評なるが今回は大小の配り方整然として見心地よし品数 三百余点会員の大作も最早や出揃ひ中々見堪へあるなり観客の足取 よく前回に優りたる好景気とは会員数名が仏蘭西行の留守 にも拘はらぬお手柄を申すべし何は扨置き待兼ねたる秋季の展覧会特に近年世人の認識に上り始めたる新派絵画の事とて過日来同好者の投書する者多くなかなか面白きことあれば之を一括めにして投書評判記十人十種の品評観客一同の穴探し褒貶百出嘲笑を買ふもの激賞の恵に与かるものよしあし草の茂きが中に巧拙の世評は自から定まるところ興多かるべし編者は尚ほ投書の続々来りてあらゆ る観察を一蒐し得んことを望む
◎記者足下、一日上野の白馬会見物致候侭素人評の一二を投ずほんの物好、掲否は別に求むる所 なし三宅克己君の水彩画数十帖相変らず御勉強の段敬服(廿二号)ハ ンフステツドの朝一寸好き小品なり図柄は極り切りたる様なれど筆の蹟面白し(廿三号)晴模様小生の好に投じたり矢張筆情に味あるを覚ふ(一 0号)秋は我国の是迄一と口に水彩画と言做せしものには見掛けざりし程 の綿密なるもの慥かに氏の伎倆を見るに足るべし中景の坡より遠景の山に掛け就中よきも前景の樹幹は海中の珊瑚珠を望むか の如くも見ゆべきか何が何やら分らず是れ余り氏が写実に過ぎ綿密に流れたる結果か今一工夫を要す氏が綿密なる正直なる筆は動 やもすれば一方に於て趣味を欠けることあり此画の如きも其一なる心地す(二五号)の雨雲は雲も後ろの山もめツチヤになり誤りて薄墨をぶちまけた気色稍や粗 雑の憾を免かれざらんか(五号)夏の朝(二四号)春もよし(一二号)肖像、水彩にて此位 肖像迄が確かり出来るは我画界中特り氏を推さんとす如何々々。白瀧幾之助君得意の風俗画此度は花嫁の大作なり主人公たる嫁御寮の嬉しく恥かしき様の面体充分、後ろにて襟を直し居る女の手 付き目障りになる所あり中腰になりて襠をさゝげ居る女のエキスプレツシヨン大に好し老婆も先づよし小児を抱き居る母は幾ら陰なればとて顔髪等の輪郭確かならずして筆をかすらせたる如き投げやりの画き方太だ感服せ ず陰陽に論なく如何なるところにても説明の不確かなるものありては如何なる傑作 といへども完璧を以て称すべからず(台麗生)

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