白馬会展覧会(三)

  • 雪丸、夏雄
  • 読売新聞
  • 1899(明治32)/11/15
  • 3
  • 展評

△山本氏の『柳塘』ハ、義理にも評を書かなけれバならぬ程の大作だ。その『熱沙の 山』ハ、これも巴里出品の一つだが、あまり感服も出来なかつた。遠景はよく画いてあ る。
△安藤氏といへバ、甞て彼の大評判であつた、『曙の海浜』を画いた人だら う。が、この『風景画』ハ、平板な富士も妙なれバ、安芝居の道具立の如き四囲の景色の、無理に接いだ様なのも更に妙である。△藤島氏の出品中でハ『雨』が最も注目せられた。
△和田氏のハ、『甲板』が面白い出来だ。太陽 が長閑に照らしてて、人や犬が遊びまはつてる、航海の快と覚えさす るのも、個様な時だらう。二枚の『肖像』のうちで、若者よりも、大額の紋付 の紳士の方が、非常によく画いてある。
△黒田氏の『外山博士』ハ、氏が得意な人 物中、最も得意なものださうだ。博士が演壇に登つて、その例の朗々たる口調で、これから講義に取りかからうと云ふ時を思ひ出させるつて、傍 の大学生が頻りと感心して居た。その『ナチユールモルト』ハ美しきこと限りなきの画、然し昨明治美術会にも河村清雄氏の筆で、これと同じ風の画があつたつけ。そのしみな、烈しい色彩と、その筆に変化の多いとを以て、河村氏の方に感服する。勿論派は異ふけれど。
『少女』なる題目の、今年 十一歳としてある雪子さんハ、場中最も可憐の作だ。その後景も良け れバ、髪の具合から、頬の色合に至る迄、一点の非難を許さない。書斎 へでも飾つたら、嘸良いだらうと思つて、目録を見たら、惜むべし非売品 だ。

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