白馬会展覧会

  • 毎日新聞
  • 1897(明治30)/10/26
  • 1
  • 展評

◎近年新派紫派南派種々の称を呼ばせて洋画界を聳動し世間 を賑はしたる白馬会は本年も昨廿五日より上野公園内に展覧会を開きぬ二三の新聞には昨年の例に思ひ合せてや日本絵画協会を共同しての如く見へしが其は誤聞にして今年は彼に関係な く独立して開けるなりけり出品中には未た画き終らざるもあるべく将た額縁の都合などにて数日遅るゝもあるよしなれば其出揃ふは此の両三日を掛けてなる べし今総出品の上に就て消息を報ずべし
◎出品総数は二百三十余点に達すべく其作家は白馬会員十六名余の十七名は客員なり
◎東京美術学校学生の出品即ち昨年同校 に洋画科を創設せし以来始めて其成績の世に発表せらるゝも のゝ此会に見らるゝこと是れ昨年の展覧会を異れる現象の一なるべし其 学生は客員なる十七名と会員中の六名にして一年生より四年の卒業学 期生に至り佳作少からずと聞く
◎作品の多き画家を挙ぐれば和田英作氏三十個、 黒田清輝氏二十個、北蓮蔵氏十八個、久米桂一郎氏十六個、小代為重氏同、安藤仲太郎氏十個、藤島武二氏 七枚等なるべきか
◎出品の多きと大作の一二に止らざる亦昨年に異れる現 象なるべし美術学校助教授たる藤島氏は横凡一間半竪凡一間 の木炭画『夕涼』なるを和田氏は其卒業製作舟待(横七八尺竪五尺 許)なるを出し、後進画家中人物画に得意なる白瀧幾之助氏は『温習』 『化粧』の大作を安藤仲太郎氏は霊岸島の暁色を横五尺計の大物に画かれぬ黒田清輝氏は今夏の函根土産とも云ふべき『避暑』の画は横三尺竪二尺五寸許なり、最近の作は横三尺竪五尺許萩の 下露とも云ふべきものにて両個とも景色を添へて美人を画けるなりけり
◎此外に三個の裸体画は黒田氏の作に藉りて現はるべし是れぞ氏が巴里の萬国博覧会 に出品せんとて経営辛苦の後此頃出来したるものにて『智』『情』『感』の三心象を表はせる裸体画なり地を金泥にして日本的意匠を添 へ各個横三尺竪六尺位なるを連ねて一額の中に収むるもの、ペンキ塗道徳眼 の人々さては、其偉観に驚けるもの、真美の裸体画を愛せる もの、其技術を味ふものなど出品の暁は観客の群集せるさま今よ り想ふべきなり
◎外に今一とつ評判となるべきは伯耳義の帝室画家より寄せ来たる 三個の大油絵なるべし外国画家よりの出品は実に之を以て嚆失と為す来月中旬頃到着出品の筈なりとぞ

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