上野の昨今

  • 毎日新聞
  • 1897(明治30)/10/29
  • 1
  • 雑報

◎美術協会展覧会は京の画家はんの遅ふお上りやはツたのが此頃揃ひて南館の眺めなかなかに賑はし棲鳳の孤猿、松年の猫に鍾馗、直入老の山水 など、これに景年の鴛鴦、曾文の千鳥も席を此処に移してズツと並ばれしは人目を惹く陳列委員のご趣向、お陰にて一寸気焔を吐き居 るところいぢらしき風情なり
◎松年の猫相変らず覇気持切りにて獰悪とや云はん陰険とや云はん誠に不可思議の猫相、上に懸けたる鍾馗の面と能く肖 て居るもをかし
◎白馬会の出品は此二三日に揃ふべきか、和田英作、久米桂一郎氏等の出品は早くより揃ひ大物にては安藤仲太郎氏の鳩山議長の肖像、黒田清輝氏の避暑、和田氏の舟待第一に舁入れられぬ、入口なる今泉氏のポンチ画も一寸愛嬌なり今日當は黒田氏の裸体画萩と美人の二個いづれか舁込まれて今年 も大入の小口此処に開かるゝなるべし
◎お隣なる日本絵画協会は場も広く出品 も中々多くして美術学校の教師連中奔走の気焔なかなか旺んなり早 や既に掲げられたる中には美術協会計り悪くも云はれぬ様な作少きにあらねど東洋画の新派とも云ふべき美術学校諸秀才の大作は是れ より続々出づべしとのことにて其陣取の既に定まり居りぬ全くの出揃は来月 十日に掛けてなるべしとぞ
◎美術協会にては金子審査長、岡倉美術学校長等博覧会出品候補の作を求められしとか此探しもの如何に六づかしかりけん問ひたき心地するなり
◎京都の棲鳳其他有望の青年画家一斉奮つて苦辛の作を絵画協 会に出だすべしと伝ふ東洋画の趨勢予め知るべきなり
◎紫のリボンを胸間に懸けたる白馬会の人々、此リボンに日本の日陰蔓 を参酌したる紫色蜷結の新徽章を懸けたる美術学校の教授連、さては其 青色なるを懸けたる同校の学生例の制服天神様を着けたる同 じ学生の人々右往左往紫影翠光相映じてこゝ美術界の天地昨年に増して美はし(芳)

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