白馬会の展覧会

  • 日本
  • 1896(明治29)/10/07
  • 1
  • 雑報

明治美術会を脱して意気甚だ昂れる同会の展覧会は愈々一昨五日を以て開会せりと聞き一見せばやとて昨日之を訪ひしに開会は今七日よりと有りしには少々気ぬけの心地せざりしにあらず、されど場内には早や多数の絵画それぞれ掛かり略々飾り付けも整ひ居たり、とかくはいづれ出揃ひの後に譲り一見のまゝ例の盲評を試むべし◎同館内の絵画共進会の画を視て此洋画の場内に入れば彼の混乱に比して是の甚だ整理せるに驚くと共に洋画の進歩を思はずんばあらず◎吾人が眼目をひきし者は先づ黒田派の菊畠なり朝ぼらけの景頗る感有り、遠近の工合、及び全体の位置色彩の調子いづれも佳、唯濃淡の様子今一きは骨折られたらばと思はるゝ所あるは多少の恨なり、同氏の野逕をたどる小女の半身画頗る苦心の効も見え其野景の取合せ位置奇にして面白く殊に小女が顔貌の高低を顕はせし手際素人には知れぬ手際あり、甘酒店も斬新奇抜◎久米氏のにては山間村落の一額見るべし紫派殊色の快活なる色もよく出でたるに其位置も能く調へり唯全景一体平坦に失して高低明らかならず、かつ物にまるみなきが欠点なるべし◎和田英作氏の河岸の図某氏の古市の渡場も可なりの出来なり◎三宅克巳氏の水彩画一寸面白けれど此人由来骨を折つた出品なし今一層勉強して少し実の入つたものを画て貰ひたし◎小代氏の日本兵上陸の図は場内第一の大画なりとにかく是丈の大作には骨が折れし事ならん、位置面白く人物などの配合は難なきも空の色より全体の調子毫も活気なく砲丸の波を上げし所軍艦の煙等甚だ力なし、殊に軍艦の比例的小さく視ゆるは遠近の著しく現はれざるが為ならんか今一息の御勉強が肝要なり

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