行政上より観たる裸体画(続)

  • 文学博士 大塚保次氏談
  • 読売新聞
  • 1901(明治34)/11/29
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出品の取締と選択を充分にして△卑猥のものハ無論公衆の展覧を禁止するが當然 である然し 同じ裸体でも姿勢等を描いた下図などもあつて此等ハ研究上美術家にハ無論必要のもので最も趣味あるものとして歓迎せられるのです尤も公衆にハ余り益も無く趣味も無い、白馬会に出品してあつたものも公衆 にハ趣味も益も無いが技術家にハ有益で趣味のあるものもありますから△此等のものハ別に案 を設けて 専門家、批評家、有志家等にのみ見せる様にしたならバよろしと思ふので す、外国の美術館にも随分古いものにハ卑猥なものもあるのですが此等ハ殊別のものに丈け見せる事にしてあります、是ハ美術高等会議か或ハ美術学校へ托して別室でも設ける事として兎も角も△取締を警察署の手から離して 文部省でも何処でも充分美術を識別する眼孔のある所へ托すのが必要です
又或る論者ハ細則を設けて警察で取締る、仮令へバ陰部 を見はすことを禁ずるといふようなことを警察の手で実行する、其他裸体でも當世風のものハ不可ぬが昔の神仏ならよいと云う様な説もあるのですが私ハ之に反対です何故なれバ△陰部を蔽はなけれバならぬ と云うのハ良くない実際風教上からいつても陰部を著しく蔽ふことゝすると却つて不自然で見る人の注意 を惹いて結果が悪いのです別して婦人でハこの憾がある△白馬会の布を纏つたのハ却つて悪結果 で あると思ふのです、又た神仏ならバ差支が無いとしたならば東洋にハ殆んど裸体は無いのです西洋彫刻などハ裸体が普通であつてその彫刻物ハ仮令へバ頭部 だけ古い時代を顕し又ハ名前をビーナス、フローラアとかに借るだけで△実際ハ現今の男 女を裸体にして 描いたのが多いのです規則許りに拘泥すると此等の弊がある要ハ唯 応用の如何にあるのです(つゞく)

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