蛍光X線分析では、材料に含まれる元素の種類や、元素の量の多寡を見積もることができます。ここでは、蛍光X線分析から読み取ることのできる普賢菩薩像の特徴について簡単に紹介します。拡大図もあわせてご覧ください。

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普賢菩薩像全図 1 2 3 4 5 6 7 8 9
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全図 1 2 3 4 5 6 7 8 9
  1. 花びらの白い色には鉛白、赤い色は辰砂(水銀系の顔料)が使われました。また、黒い縁が見えますが、実は銀箔を細く切った銀截金です。 
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  2. 背景の部分からは、青色の顔料(群青)に含まれる銅のほか、銀が検出されました。今は暗い茶色ですが、当時は銀截金により縁どられた花が散らされ、背景には銀や群青が薄く塗られ、衣には銀で縁どられた花、金の細かい模様があり、銀の白い清楚な輝きと金の華やかな輝きが画面を厳かに満たしていました。 
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  3. 金箔による金色の小さな仏像(化仏)が見えます。髪の青色は群青です。分析から、これらの部分に薄い鉛白の下塗りがあったと考えられます。 
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  4. 頭や体の周りに暗い影が見えますが、この部分からは背景より多くの銀が検出され、光を放っていたと思われます。放射状の筋は金截金と銀截金です。 
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  5. 顔や体の部分は鉛白を使って描かれ、辰砂でところどころ赤色が付けられています。額の白毫は暗い灰色ですが、銀が含まれます。 
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  6. カラフルな衣や装飾には、赤は辰砂、緑は緑青が使われ、主に細く切った金箔(金截金)で模様が描かれました。金箔と銀箔を重ねた合わせ箔の截金が使われた部分もあります。白い花模様の黒い輪郭は銀截金でした。また、分析からは、色を付ける前に鉛白で下塗りをしたことが考えられます。 
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  7. 赤色の帯状の部分(尻繋)は辰砂で着色され、金截金で文様がつけられています。葉っぱのような飾り(杏葉)からは金と銅が検出され、金箔の上に青色で模様が描かれました。 
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  8. 象の体は鉛白によるものです。口や目の縁が鮮やかな赤色ですが、やはり辰砂を使っています。また、牙の黒い輪郭は銀截金でした。 
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  9. この部分には、オレンジ色の鉛系の顔料(鉛丹)が使われました。金截金による細かな文様も見られます。 
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装飾の金截金など、詳細な写真から存在を確認できる材料もありますが、長い年月を経て変色する材料など、分析により初めて正体を知ることができます。銀截金により縁どられた花が散らされ、背景は銀や群青が薄く塗られていて、普賢菩薩は銀色の光に包まれていました。衣には銀で縁どられた花、金の細かい模様がありました。自らを、あるいは身近な女性を救う唯一の存在であった普賢菩薩を精一杯描かせた、高貴な人々の強い願いが込められている絵画であることが、分析から読み取ることができます。

蛍光X線分析データ