調査では、目で感じることのできる光(可視光)のほか、可視光よりも波長の長い近赤外線を光源として用いた近赤外線写真を撮影しました。また、可視光の中でも比較的波長の短い特定の波長の光を当てることで、物質が発する光(蛍光)を撮影しています(蛍光写真)。ここでは、普賢菩薩像を例に、近赤外線写真と蛍光写真について紹介します。

近赤外線写真では、特に鉱物質の顔料や金属箔などの無機物について、物質が反射する光や吸収する光の強さの違いとして、物質の違いを目に見えるように(可視化)します。蛍光写真では、特に染料や画絹などの有機物の物質が発する光の違いが記録され、物質の違いを可視化します。いずれも、目に見える色の違いとは無関係に、物質の違いを可視化する写真ですので、変色したり、他のものに紛れたり背後にあったりして、見えづらくなった材料が見えるようになることがあります。

近赤外線写真や蛍光写真と、可視光による写真、さらには蛍光X線分析の結果から、技法や材料、表現についての情報を得ることができます。例として、普賢菩薩像の頭のあたりを見てみます。

近赤外線写真(右)では、カラー写真ではやや不明瞭になっている頭頂部の飾りや菊花文などの金箔を用いた装飾、金色の小さな化仏の表情、放射状の光の筋(光条)を見ることができます。特に、可視光では黒っぽく背景に紛れている銀截金の光条が、近赤外線写真では、画面中央から左上に向かう様子がはっきり見えます。

カラー写真(左)近赤外線写真(右)
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蛍光写真(右)を見ると、頭光の輪郭が帯状に強く光っています。内側と外側を塗り分けたほか、輪郭のあたりには蛍光を発する何らかの物質が塗られて、制作当時は視覚的な効果を与えていたのかもしれません。背景の部分には縦横の筋が見えます。これらは修復で補われた絹で、この作品を今日まで伝えた先人たちの努力を示しています。

このサイトでは、平安仏画4作品について、近赤外写真や蛍光写真と可視光で撮影した写真とを並べて見ることができます。以上を手掛かりに、これらの写真から何が見えてくるかをぜひ確認していただけたらと思います。

カラー写真(左)蛍光写真(右)
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