X線は、可視光などと同様に波の性質を持ちますが、波長が非常に短い電磁波です。
波長が非常に短いために、X線をものに照射すると物質を通り抜けます(透過します)が、どの程度透過するかは、そのものを構成する元素の種類や分布により異なります。この透過の程度の違いを画像として記録したのが、透過X線写真です。

重い(原子番号の大きい)元素ほどX線は多く吸収され、透過しにくい性質があります。透過X線写真はネガの状態で観察するため、明るく見えるのが透過するX線の量が少ない箇所です。平安仏画の場合、重元素を多く含む顔料が厚く塗られている箇所や、金属泥や箔を用いている箇所で透過するX線の量が少なく、明るく写ります。

普賢菩薩像の顔のあたりのカラー写真(左)と透過X線写真(右)を見てみます。
顔が背景に比べて明るく、顔料の厚みが背景よりも大きいことが分かります。顔の輪郭や三道(首にある3本の筋)のあたりがより明るくなっていますが、カラー画像を見てもより白っぽいため、厚く塗られています。白目の部分も同様です。また、顔に暗い亀裂のような筋が入っていて、カラー画像で見るよりも多くの補彩があることが分かります。

髪の毛や蓮の花の紺色の部分も、明るく写っています。首飾りや唇など赤色の部分は非常に明るく、厚塗りされた花飾りの輪郭は特に白っぽく見えます。 一方、金が用いられた箇所は、光背の線条が背景よりやや明るく見えるものの、耳飾りや頭上の化仏など、蛍光X線分析で金が検出されているにもかかわらず、透過X線写真ではほとんど見えません。これは、金箔が非常に薄く、小さな孔が数多くあいていて、X線が多く透過するためです。 このように、透過X線写真も、顔料の種類や補彩、補絹の有無といった、作品の技法や履歴を知るために用いることができます。

カラー写真(左)と透過X線写真(右)
比較画像

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