白馬会(下)

  • 萬朝報
  • 1910(明治43)/06/16
  • 1
  • 展評

△藤島氏の土産は第五室の第一装飾、場の中大異彩である、中沢氏の「斜陽」と比較した「三五0」の夕陽は光と色とを以て鳴る氏の作品中、特に光を代表する驚くべき作品で、この画のみとは限らないが、確かに数筆を呵して天地大自然の色彩を捕へ来る大手腕は當代一あつて二なきものである、もしその破墨的用筆の妙に至つては、得に端倪すべからざるもの、その最も甚しきは三六〇(?雲の下を帆船が行く、あれだ)等で、人もし一たび遠く望んでその豪宕幻怪の大光景に接し、再び画面に近づいて艇の行く跡を辿らんか、驚嘆変じ■■■■(判読不能)■■■■
△■■■■(判読不能)■■■■日本ではこんな強い自然は余程の場合でなければ見られぬけれど、行きつまる所まで同一の筆法を続けてもらひたいことである、我等は日本画に於て夏珪馬遠の■を汲むものゝ出でんことを望むと同時に、西洋画に於ても一■に此種の強きものを求める、今のわが国の絵画は国民思想と共に余りに情調に傾いた
△黒田氏の画は暖かくて、雪まで暖かい、「夏の夜の月」は下村観山の「大原御幸」の結末の一段(去年二葉会に出た)と同一趣あるもので是亦将来の日本画を思ふものに取つて好調の参考物である
△第六室には湯浅氏の模写し来たヴエラスケス、ムリヂヨを始め、種々の貴重な参考品が陳べてある、西洋の名画をこの侭に購入することの出来ぬ日本は、特にこの種の模写を歓迎しなければならぬ、こゝに画家中に篤志家があつて、一生を模写に盡くしてくれるものが出るなら非常に結構であらう
△第七室で山脇信徳氏の「雨の夕」は「停車場の朝」以上である、氏の画は「游泳場」の如き日光遍照せる光景を捕へて失敗する、しかし強ち題材は広きを要せぬ、一方的に邁進せられたい「風景四題」を出した香田勝太氏の色調は注意すべき価値がある「うしろの光」や第九室の「池の影」を画いた御厨純一氏は構図だけは気の利いた所がある
△第八室では流石に岡吉枝氏の「少女」が目についたが、バツクが気に入らず、松井英次郎氏の「お小休み」は輪郭の余りに■然たると色の■いのが面白くない、「朝」の作者久保川貞平氏は■人ださうな
△第九室には斎藤五百枝氏の「人形と草双紙」などがあるが、長くもなつたから、すべて割愛する(完)

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