白馬会を観る(一)

  • 魚田生
  • 時事新報
  • 1910(明治43)/05/18
  • 7
  • 展評

文部省の公設展覧会が開かれる様になつてから作家の多くは主に其方に力を集注する傾があるので、自然年々の私設展覧会が以前の様に振はなくなつた、白馬会のも此両三年間多少其傾向がある、今回も出品点数に於ては実に従来に例のない多数で其総数六百有余点の多きに達して居るが其内の大部分は新進画家の作品であつて大体に於て是等新作家の進歩と熱心とを認める事は出来るが中に就に多少見耐へのある作品を求める事になると存外寥々たる感じがある。
今此多数の出品を一々評し去る事は到底紙面の許す限りでないから特に評者の注意を惹いたものゝみを挙げて之れに略評を加へ様と思ふ。
小峰幸祐氏「犬吠岬の夕」色彩が奇麗過るのと筆の堅いのは困るが大体に於て丁寧な出来で難が少ない夕べの感じは今一息だ。
植草四方作氏「森の漏日」好い色ではあるが今少し深味のある暗い調子で行きたかつた、樹幹の丸味も十分でない地面の影は少し暖か過ると思ふ。
山田実氏「街」筆に面白い処はあるが色の観察にはまだまだ研究の余地がある。青山熊次氏「アイヌ」数人のアイヌが爐を囲んで愉快気に放歌談笑せる光景を描いたもので、和田三造氏の▲燻を聯想させる様な調子の絵だデツサンに多少怪しい点があるのと光と色の調子が稍一様になつた感じがあるのは残念だ、苦心の割合にはえないのは至當であらう、併し是丈のコムポジシヨンを是迄に画き上げるのは容易な事ではないので作者の苦心と努力に対しては充分に敬意を払う価値がある。
鎌尾武雄氏「農商務省」色の調子は結構だが水に映ツた影の筆が堅いのと色の強いのとで少なからず全体の調子を妨げてる。南薫造氏「ウインゾル」「倫敦ハンマースミス橋」「風景」何れも水彩のスケツチだ九点程の出品の中で此三点が最も優れて見える、色にも筆にも何処か浅井式の処が見えて能く水絵の特色を発揮して居るのは嬉しかつた、只全体に色彩が単純な爲めに多少奥行の足りない感じはある。
黒田清輝氏「森の中」パステルの瀟洒たる小品ではあるが老熟なる筆の内に何処か動かす可からざる確かな処がある、此他には「庭前の雪」「初秋」「秋の色種」等のスケツチがあつて、何れもよく氏の特色を発揮して居る。

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