第四室に這入ると此処には水彩画パステル画が多い。先づ一寸面白いと思つたのは二百十九の風景（玉尾武雄）であつた。極簡単なやり方で運筆が一々利いて無駄がない。之は大変面白いが余り小幅で技倆を云々するは過大に失する。後日を期せねばならぬ。南薫三とは如何した人か知らぬが英国の写生が五枚出てゐる。其中で二百五十六の橋とウヰンゾル宮と古い豚小屋の三枚が面白い。之が本統の英国流を伝へたものと思ふ。三宅克己君の水彩画よりも面白い。形がしつかりして色も確かで日本の水彩画のポカポカしたのとは大に違ふ。其の隣に黒田清輝君の画が三枚懸つてゐる。其内二百六十の水のほとりは三人の女が水辺に寝転んでるパステル画、之は色が大変に面白い。が二百六十一の婦人は黒田君としては出来の悪い方だらう。固すぎて輪郭もよくない。二百六十三、六十四は何らも岡田三郎助君の画の草稿で女の頭だけ描いてある。毎時綺麗な華奢な仕事が小さい丈に我々は今度の方を出色の作と思ふ。それから湯浅一郎君の水彩画が沢山ある。西班牙流か何か知らぬが日本人には余り歓迎されぬらしいが非常に強い色で堅いやり方で日本人のやつた事のないやり方だから一寸面白く思ふが我々は湯浅君の仕事としては油絵の真面目なスケツチを取る。大抵半身の女であつた。その内二百八十九と二百九十を面白いと思ふ。緑蔭の女の顔は色がよく、四辺の配合は悪くないが少し固きに失する。それからずつと見て目に留つたのは三百六の新緑（中沢弘光）。之は極大人しい色で上品に仕上て無難な作。道の高低なぞもよいが惜しい事に空が調和せぬ。三百二十七の夕凪（山本森之助）は苦心の作らしい出品中では大きい方である。雲がよい。水は固くて動かぬ且つ平板に失してゐる。今一つの漁火は出来栄から云へば遜色がある。雲が青過ぎて光度が利いてゐない。その近所三百二十九の跡見泰の泊船は色も様子もよいが時間の説明に欠けてゐる。何時を書いたんだか分らない。藤島武二君の滞欧紀念スケツチは二十六七枚ある。荒ツぱな仕事で印象派でもなく従来の黒田流の主唱した色でもなく今日西洋で行はれてる色らしいが仲々面白い。併し政府の金を貰つて四年も留学した人のお土産としては軽少に過ぎる。何も一度に見せて呉れなくともよいが力のある物を一枚位見せて貰ひ度い。一時間で出来る様なものを二三十枚見せて貰つた処が溜飲が収まり兼ねる。