白馬会の絵画(下)

  • 都新聞
  • 1909(明治42)/05/03
  • 1
  • 展評

(五月十日迄―溜池三会堂)
此の如く同一の目的を有つてゐるが爲めか、中沢氏等数人の作には共通の点が多い、題材の如き、題材の取扱ひ方 の如き、若くは自然に対する観照法の如き、作家其の人の天分 と修練とに由るものを除くの外は殆ど皆一致してゐる。
されば、其芸術的価値 に至つては作家の天分と技倆との上に差があるのみで、各個人に就て見れば中沢氏の軽俊にして変化に富める、山本氏の精緻にしてデリケートなる、若は跡見氏の特殊の色に対する愛着、小林氏 の自然に対する従順の態度など其れ其れに趣があり特色がある
海外 の画風を其侭に伝ふるものには柳敬助、出口清三郎及び此程 帰朝した矢崎千代二等の諸氏がある、是等諸氏の中、柳氏の肖像画 は力があり重味があつて此会には異色あるものである、矢崎氏の景画は其粗き描写の中に天稟の才気が見え出口氏の各種の作品はセンセーシヨナルの色に其特色を示してゐる。
黒田氏には其庭園を写 した数点の小品がある、何れも例の垢抜けした品のあるものである、或る人は氏 の画を貴族的だと云つたが、兎に角此気品のある所は氏の特色で あらう、岡田、和田(英)二氏の人物画の中、記者は岡田氏の作 を推す、氏の細心刻画の描写は文壇に於ける故紅葉を聯想す べきものである。
水彩画では三宅、中沢二氏の作が最も注目される、三宅氏 が水彩を以て油絵と同じ効果を出さんとする努力は果して 称すべきことであるか知らぬが、其作品は多少其目的を達してゐる、中沢氏 の作は温泉地の光景を写したもので、例の名所図絵的趣味に富んで ゐる。
参考品としてコラン氏の「楽人」がある、氏の壮年時の作で、余程クラ シツクかぶれしたものだが、其れでも流石に技巧の上には人を牽引する力がある、日本 の洋画家が之と並行し得るの域に達する迄には未だ余程の 未来を要するであらう

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