白馬会展覧会を観る

  • 一記者
  • 東京日日新聞
  • 1909(明治42)/04/22
  • 3
  • 展評

十六日から赤坂三会堂で開かれた白馬会の展覧会を観た我邦の洋画会に於て最も歴史あり光彩ある画会と云へば先づ指を此会に屈せざるを得ないから世人が此会に期待する所の多きは無 論で春の展覧会中最も注目すべきものゝ一つたる事云ふ迄もない然 るに記者が此会を見て跡に残る最も著しい感想は只日本 の洋画会の如何にも見すぼらしいと云ふ一事である此故に記者は全体として 此画会には多大の望を繋がずに普通一般の標準を以て仮に 二三の批評を試みやう△階下第一室 には新帰朝の挿画家戸張孤雁氏の挿画 三宅克己中沢弘光氏等の水彩画が重なるものだが戸張氏の挿画は其挿 画に対する主義即はち単に原作の説明たるに満足せずして文章で表はし難い原作の画趣を発揮せんとする考は甚だ可なるも氏 の技術は未だ之に称はない「棄子」と題する画の如き姿態不整で盗むが如く仰向いた女の顔に少しも悽愴の気がない三宅克己氏の水彩画は水彩画まで油絵の効果を生ぜしめんとするもので生々した 水彩の色が殺され版下画の様になる但し出品中で掘割に沿 ふて汚ない二階立のある図が一番成効して居る只空の色は余り明るすぎる中沢氏のは先日スケツチ展覧会へ出したものだが氏一流の気の利 いた筆つきと色の鮮なのが三宅氏と好対照だ△階上の陳列 中には有名なるコランの「女楽師」を始め黒田岡田諸氏の作品があるが黒田氏のでは「雪 の遠景」及び「百合」などが面白く岡田氏のでは「雪の庭」が佳い中 沢弘光氏のでは「夏の海岸」は印象派的で「花下少女」には装飾的の趣味がある山本森之助氏のは矢張スケツチ展覧会へ出た物 の再出だが色などは研究されて居る然し余り塗立てすぎた嫌がありはせぬか 新帰朝の矢崎氏の画は一寸プラングヰン式だが色が余り別々になつて統 一されぬ感がある氏は寧ろ本職たる新らしい壁画風の画を書いて標本 を示したら如何だろう乎其他出口氏の林九里四郎氏の「山」正宗 得三郎氏の「蜜柑畑」MK氏の「花瓶と花」太田三郎氏の「町景 」北上氏の「御茶の水」などは一寸眼を牽いた最後に一番印象の強く残つたのは柳氏の「肖像画」二枚だつた(一記者)

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