△黒田清輝氏　裸体の女の半身像が一枚と静物、庭園、海岸等のス ケツチが数枚出て居る。最近に於ける氏が円熟せる技倆は之によりて遺憾 なく窺ふことが出来る。先づ裸体の方を見て快く感ずるのは胸 で、斜に仰臥せる感じは充分に顕れて居る、遉に老手である。然し手が聊か木彫に類せずやと思はれるが奈可。それから顔に丸味が少いといふ非難もありさうだ。斯くは云ふものゝ是れほどの薄き絵でありながら、額縁の強き金色に少も負けて居ない所は、確に他より一頭地抜出て居る所 である。其他のスケツチは何れもこれも気のきいたもので、一寸真似の出来ないものがある。然 し海岸のスケツチは首肯しかねる。
△長原止水氏　是も裸体で女の半身である 色のオチツキはいゝやうだ。手の指などに丸味はついてゐるが、それが奈何にも不自然である、尚研究 の余地があるやうに思はれる。
△無名氏　村娘が草篭を背負つたまゝ休憩して居る所である。描き方は未だ幼稚なものだが、一寸野趣があつて面白い。疲労の趣はよく出て居る、尤も色はキタナイが。
△後藤某氏　老人が鏡を見て驚いて居る所らしい。手付きがオカシイぢや無いか。
△渡邊亮輔氏　肖像、老人 だ、一寸気どつて居るが力がない。此人は新聞や雑誌のスケツチを得意として居るが、其中で人物はいゝやうだ、然しヤツパリ線が弱い。
△橋本邦助氏　いゝ所 がある、渡邊氏よりも此人の方が何うやら上らしい。