絵葉書展覧会の済んだ跡直ちに白馬会の展覧会が開かれたり前 には入口へ大きなポストを立て之を黄く塗り上げしが今度は入口 へ冠木門を造り之を青く塗り立てたり真逆か絵も青いとの誑にはあるま じけれど何となく地味の様な気がして何時もの白馬会とは思はれず出品は新 作半分旧作半分で此の旧作は同会十週年紀念展覧会と云ふ処から会員各自進歩の跡を御目にかける為め特に費を擲 つて一旦人に売り渡したものまで改めて借り集めたるものゝ如く口でばかり 己はうまくなつたうまくなつたと吹聴しても世間が左様信じて呉れぬ故実物を持 ち出して比較して見せるとの心底なる可し新作には小林千古氏の出品数点 あり日本の展覧会には初めて顔を出したる人なれど斯道に入 つての履歴は頗る古いものにて腕の確な事亦一段なり黒田さんも久 米さんも何れ愚かと云ふではなけれど今度の展覧会は何だか小林氏一人 の舞台とも云はま欲しき有様にて美術学校の若手など殆んど顔色なしと申ても差支なし三宅克己氏の水彩画も愈々出でゝ愈々面白く殊に今度のには広重あたりが好んで使つた濃い藍色を借りて来 て随分変つた筆を見せたものもあり水絵に於ては何様しても當今此の人 を推さねばならず林忠正氏が巴里から持て帰つたコランの『詩』は特別天蓋付の御師匠株程あり見れば見る程味が出て来るが妙なり人気役者の和田英作さんは不相変『衣通姫』などゝ云ふ柔い処を書いて居れど此 の前の『お七吉三』の様に筆がニヤケては居ず何方かと云へば真面目の作 なり小林萬吾氏の『静御前』も色は兎に角落ちつきは十分にしてコランの御前立に撰れた丈けのものあり意外に善くこなして居るのは和田三造の『農馬』 序ノ口に打込まれ乍ら異彩を放つて居るのは南とか云ふ人の風景画 なり