白馬会展覧会所見(下)

  • 時事新報
  • 1904(明治37)/10/14
  • 6
  • 展評

△黒田清輝氏の「大隈伯肖像」は肖像画中の大作で頗る上乗の出来である「花」紫陽花、芍藥、百合、罌栗等皆佳作△藤島武 二氏の「婦人肖像」外に装飾用の肖像画「朝」「蝶」又は「夕」等種々画題の下に描き分けたのは実に縦横恣逸の想を穏和なる筆で描し成したもので而かも気韻の掬すべき所がある
△岡田三郎助氏の水彩画「仏国ニスの記念」は緑陰の裏に古代 の建築物を描出したもので色彩の配合宜しきを得たると風物の穏 静なる筆致の謹密なる等何となく古績の趣が現はれて居る「仏国ムードン森の記念」は水涯に臨める疎林秋色を催し黄葉将 に落盡さんとする蕭疎たる景物を描出したもので木葉を一瀉掃過した筆致は甚だ軽妙で面白い「元禄の面影」は時代名妓の姿を写出した者であらう緋鹿子の衣装を着て胸より以上半身を現して居 る髪の格好やら粧飾具迄注意よく行届き背後の幕やうの物も 人物との配合面白く中々骨の折れた所が認めらる「コレオブラスチー」(絵革)に描いた人物草花等の図案は面白く何れも工芸品に適當のものである
△三宅克巳氏の水彩画「暴雲」「暴模様」「夏の雲」 等いつれも佳品「橋」は頗る謹密に描いてある併し未だ模写の痕跡 を脱し得ないやうである「茅屋」近在の田舎の景色らしいが藁屋葺 の家屋と其他の添景及び盤の色とが総べて同一色で変化が少 ない「夏の日」は夏の田畑に日光が反映して日向と陰影の分 てる所を見せた具合、中々凝つて居る△山本森之助氏の「田家」は山麓の一村落を写して極めて緻密な出来である尚ほ二三の作品も見 えたが多くは細画小作である△森本茂雄氏の「田圃」「曇日」一は曇色一は雨を催さんとする雲色を描いたもの△小林萬吉氏の「樹陰」は緑 陰の下乳児車の内に幼児の傍に婦人の立て居る図で容姿から挙動表情真に迫つて居る△故陸軍歩兵大尉河野通義氏が生前戦 地より送つたと云ふ戦場実写図は葉書位の小片紙で実況を写生した丈に図案が中々面白い内地に在つて坐ながらの工夫 とは自から面目を異にして居る

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