白馬会案内記(六)

  • 四絃
  • 都新聞
  • 1903(明治36)/10/23
  • 1
  • 展評

第五室では和田英作の夕暮の三保は人目を惹か無いが傑作の中だ、殊に手前の砂の色などは中々面白い。
岡田三郎助の京の春雨は西京の雛妓の半身を描いたもので有るが岡田氏のは元来斯様云ふ様な明るい画は不得策の様に思はれる。暗い方の画の花(二0一)などは場中屈指の絵で又岡田氏の得意の物で有る。然るに此の如き得意の技を捨てゝ却て明るい京の春雨の如きを描くのハ何様いふ事で有らうか。
北蓮蔵の夏ハ他の添乳吹笛に比して出来の好い方で有るが肉の色に芳翠式の色の更に汚れた様なのが有るので多少不快に感ずるので有る。而して乳にもあてた手と胸とに距離が無いのハ手の甲の光と胸の光の部分とが同じ様な度の色で有る為であらう。
跡見泰の曇と月とハ色に於て云ふ可からざる味の有る画で、月の画などハ暗い好い気持で出来あがつてゐる。
小林鍾吉の船ハ空が最も面白く之で全体を描き上げたらばと思はれる画だ。他に五枚程船の画が有るが一体水上生活と船を専門にやる人で他の物を描くよりハ出来が好い様だ。日本の様な海国で水上生活や船を専門に描くのハ極めて面白い事で有る。
藤島武二の諧音ハ去年の天平式を更に装飾的で無く風俗画風に描いたもので顔面の表情などハ至極面白い様だ。フオンの色も面白く花などの描法ハ巧を盡してゐる。只全体に女の肉色が赤過ぎる感が為る様だ。

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