白馬会案内記(四)

  • 四絃
  • 都新聞
  • 1903(明治36)/10/15
  • 1
  • 展評

第三室は特別室を含むだもので、湯浅一郎の画室、岡田三郎助の花の香、ヘンリー、デユモンのエバ、黒田清輝のエチユード、秋、春の六枚が有、画室は全身の裸体の女が椅子に腰を下して居る画で稍赤い気持ハ有るが、全体ハ中々好く纏てゐる、窓から光の流れ込だ色も面白く一種強烈の感の有る処ハ他に類の少ないものだ只裾の辺の向ふの足と手前の足とが一つに成つてゐるのハ欠点で有らう、
岡田の花の香と題したものハ、二少女の半裸体で相対して居るので、腰に巻いた布が少し重過る感がする、然し之の画ハ晴天の時と雨天の時とハ色が異て見えるので晴天にハ、カドミユーム懸つた色が多く見える様だ、
エバと云ふ題の画は松方正作氏が仏国から買つて帰られた画で、肉の描法なぞハ大膽な事と手際な事ハ驚く計りで有る、
黒田の画でハ春と題した画の好く秋の画の方にハ陰影の色に幾分か汚れた様な色が見える様だ、然し顔などハ日本人のモデルと差つて実に表情に富だ顔だ。
第三室の特別室外の物でハ柳敬助の夕景と朝との二面が一異彩を放つて居る、夕景などハ殆ど八十日間費やした画で、骨の折れた丈に中々に見堪への有る画で有る、暮色の気持ハ充分に有るが木の枝の描法が多少器用に過ぎて居る様だ、其の他ハ橋本邦助の少女で、眼と手に多少の非難は有るが、衣服其他の背景にハ着実の中に一種の才筆を認める事が出来る、但し最も得意とするのハ静物画の様なもので第五室に有る二0四号の鶏などハ巧を極めたもので有る、同氏の目的ハ静物画で以つて一家を為さんとするので有るから、今後刮目して待つ可きで有る、(記者曰く本紙に毎号掲出する白馬会の縮図ハ橋本氏の筆なり)

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