白馬会案内記(二)

  • 四絃
  • 都新聞
  • 1903(明治36)/10/10
  • 1
  • 展評

入場第一衆人の注目を惹くハ和田英作筆の思郷と題するものだ。妙齢の処女が白きカーテーンを懸けた窓の戸に依つて窓外に思を走せて居る図で、眉と眉との間に一寸小皺を寄せて居るのハ筆者の心意気で有らう。
之ハ仏国のヌーボー、サロン、に出品した画で、元来が之の倍以上有つた大作の一部なので、窓外にハ夕映の空美はしく色様々の花卉が咲き乱れて居て余光は窓の内迄流れ入り婦人の足元に達してゐるので有つたのが、外景と人物との調和が無い為めに、思ひ切つて小さく縮めて了つたもので有る。其故に一見した処でハ画面の上も下も窮屈気で、或る目的を以つて初めから思案を凝らしたものとハ受取難いので有る。
其でモデルハ巴里の日本料理店の女中で、衣服ハ巴里の質屋に這入つて居たのを引出て来て着せたのだ相で有る。
其の他、第一室の中での佳作ハ亀山克巳筆の若草山。岩鼻正修の比えい山、なぞで、真面目の画では有るが腕の足り無いのが高辻武の山家の冬大きいのが吉田六郎の夏の海、と北蓮蔵の添乳とで有る。
添乳ハ素人の眼を喜ばせる画で有るが達者の腕と云ふ事が眼に見えてゐる、其で此の絵に素人が何故集るかと云ふに、時間的の意味を持てゐる為に、絵に対して或る者を求める人にハ小説的の味を多少与へる処が有るのだ、然し絵画ハ空間的のもので有て見れバ時間的の意を絵画に求めるのハ正當の事で有るか否かハ問題で有る

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